里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

【新美貴資の「めぐる。〈122〉」】ユーチューブを始めてみた 地元の水産業を応援したい

〈『日本養殖新聞』2022年8月25日号寄稿〉

2年前から動画共有サービス「ユーチューブ」への投稿を始めた。投稿は不定期で、作成した動画の数はまだ少ないが、これまでに愛知県内で食べた魚料理、名古屋市内のウナギ店のうな丼、アユやサバなどの水産加工品、地元の川で見られる生き物などを紹介する動画を発信してみた。

どの動画もつたない内容ではあるが、やってみたら想像していた以上に面白くて、いろいろな発見があった。興味がある対象を、どのように撮影して編集するか。文章を書くことと映像を流すことでは、伝え方が大きく異なる。活字とは違った表現について、新鮮な気持ちで日々模索している。

この原稿を書いている時点で、チャンネル登録者数はまだ30人。一つの動画の視聴回数は、多くても100回から300回くらいの弱小「ユーチューバー」である。

自分が投稿した動画を多くの人に見てもらうことができ、発信したことをきっかけに新たな縁や仕事が生まれたらうれしいが、そのために無理をしようとは考えていない。好きなものを作り、自分のペースで発信していきたい。

世の中は、様々な分野で技術開発がどんどん進み、暮らしは便利になっているように見える。しかし、私たちは本当に幸せになっているのだろうか。

生産性を上げれば、それを上回る成果がさらに求められる。資本主義下において、効率の追求には終わりがなく、生命や健康さえ犠牲にさらされている。

文明の進歩と人間の幸福は必ずしも比例しない。

先行きの不透明な中、誰もが安定した人生のレールから突然外され、転落してしまうリスクを抱えながら、時間と数字に追われて生きている。私たちは、「経済」という回し車の中をずっと走らされ、そこから振り落とされないようひたすら疾走し続けることを強いられている。

では、私が思う幸せとは何か。それは、自分の意思で過ごす時間の中で楽しみや喜びを感じること。そして、自分が他の人々や地域の役に立っていると実感できることである。

地元の愛知、さらには岐阜や三重県も含めた東海地方の水産業を応援したいという思いは、ずっと変わらない。今のような世相の中で、自然と共生し、家族や仲間と協働する漁村での生き方を伝えることには、きっと意味がある。また、古代より連綿と続いてきた営みである小規模漁業をきちんと捉え直し、果たしている役割と持っている機能について、広く理解を求めていくことも必要だと考える。

ウナギのことについても、文章だけでなく、動画、写真、詩、音楽、絵などで発信できたら面白そうだ。この小さな部屋から、世界のどこかのだれかに伝えることができるのである。

私のレールは曲がってばかりいるが、このような気持ちを忘れずに、これからも自分の感性を信じて、表現することを続けていきたい。伝える手段の一つとして、ユーチューブをもっと試してみようと思う。よかったら私のチャンネル名「にーたか」を検索してのぞいてみてください。

ユーチューブで名古屋の城下町にあった「蒲焼町」について取り上げた

【新美貴資の「めぐる。〈121〉」】一流の職人とは? 不屈と信念と人柄

〈『日本養殖新聞』2022年7月15日号寄稿〉

世の中にはいろんな仕事がある。その中で「職人」と呼ばれる人、またそうした人びとが従事する仕事とはなんなのだろう。

水産業でいえば、漁師や競り人、仲卸や魚屋で働く人などが真っ先に思い浮かぶ。でも、職人を定義しようとするとよくわからず、もやもやしてしまう。

手元にある辞書で職人を引いてみると「手先の技術によって物を製作することを職業とする人」(『広辞苑〈第六版〉』)や「特殊技能を持って衣食住関係の実生活上の要求に応える労働者」(『新明解国語辞典〈第五版〉』)とある。

思い出すのは、長良川に生きた一人の職漁師のことである。生前に取材させてもらったことがあるが、どうやって魚を獲るか、寝ても覚めてもそのことばかりを考えていると話していた。川を壊され、汚されても、不屈の精神で漁を諦めず、川の行く末をいつも気にかけていた。職人とは、生きる姿そのものではないか。

話は変わるが、先月にNHKで放送された『レギュラー番組への道』の『マエストロたちの晩餐会―江戸前鮨の職人たちー』の回は興味深かった。

番組では、一流の鮨職人である青木利勝氏(57歳、職人歴34年)、杉田孝明氏(48歳、同30年)、尾崎淳氏(45歳、同22年)の3人が登場し、鮨の技術や店の経営、弟子の育成などについて語り合った。

旨い鮨とは?という問いに対しては、「心から満足できる鮨」(青木氏)、「職人の意思がわかる鮨」(杉田氏)、「居心地の良い鮨」(尾崎氏)。また、経営者と鮨職人のバランスの取り方については、「8(経営者)対2(鮨職人)。それなりの魚を使っておいしくもっていくのも僕らの技術だと思う」(尾崎氏)。「5対5。職人は人もしっかり育てていかないといけない」(青木氏)。「0対10。自分は人を喜ばせたい。そこに全て貫かれている」(杉田氏)と、三様の答えが出された。

十分な技術と経験を持って、有名店を営む三者の答えは、どれも正しいと思った。信念と飽くなき向上心を持っていることが、職人である証なのかもしれない。

分野は異なるが、家具職人・秋山木工代表の秋山利輝著『一流を育てる 秋山木工の「職人心得」』(現代書林)には、〈お客さまに好かれる21世紀型の職人を育てない限り生き残る道はない〉と書かれている。21世紀型の職人とは、他人への気遣いや感謝、人のことを考えられる職人で、〈一流の職人は技術より人柄〉であるという。

どれだけ技術があっても、頑固なだけではやっていけない。時代はどんどん移り変わっている。変わらないためには、変わらなければならないこともあるだろう。

でも、若いうちに親方のもとで何年か修業し、技術だけでなく礼儀や作法などを学び、人間力を身に付けることは必要だと思う。基礎の型がなければ、応用させることはできない。

魚食文化の継承と発展を担う職人について、これからも関心を持って見ていきたい。このようなことを考えていたら、ウナギの職人たちが大切に育て、仕分けて調理したうな丼が無性に食べたくなってきた。

多くの職人が活躍する消費地の魚市場。その地域の魚食文化を担っている

【まいまい東海】主催のツアー「【篠島シラス】絶品シラス丼を目指して、お魚ライターがいざなうお魚天国篠島さんぽ」でガイドを務めました

独自の視点を持つガイドとまちのあちこちを歩く「まいまい東海」のツアー「【篠島シラス】絶品シラス丼を目指して、お魚ライターがいざなうお魚天国篠島さんぽ~漁港に魚市場、海が培った信仰の地を巡り、漁師一家の待つ食堂で舌鼓~」が2022年6月12日に開かれ、ガイドを務めました。

愛知県南知多町篠島は、三河湾に浮かぶ周囲約8キロ、約1600人が暮らす漁業の盛んな小さな離島です。

当日は好天にめぐまれ、毎年伊勢神宮に納める「おんべ鯛」が作られる中手島、魚市場や漁港、伊勢神宮と深いつながりのある神明神社、美しい海浜が広がる前浜(ないば)、迷路のような小道が交錯する漁村集落、昔の造り酒屋、島に残る最古の木造建築である医徳院などを約2時間かけて見て歩きました。

この日は、島の基幹漁業であるシラス漁が臨時休漁となり、魚市場での水揚げや加工場周辺での天日干し作業を見ることはできませんでしたが、最後に「&しらす食堂2929」で、島で水揚げされた生シラスと釜揚げシラスを皆さんと一緒に味わいました。シラスのコロッケや天ぷらもご馳走になり、皆さんに喜んでいただくことができました。

篠島との出会いは10数年前になります。以来、取材などで何度も訪れているのですが、この島の歴史、漁業、自然、文化など知らないことばかり。知識が十分でないうえに、このようなツアーを行うのは初めのことなので、案内者として不勉強かつ不慣れな点が多々あったかと思いますが、とりあえず無事に終えることができてほっとしました。

今日歩いた所は、島のわずかな一部分です。まだまだ他にすばらしい景観や名所、旧跡がたくさんあります。四季によって異なる景色や豊かな魚介が獲れる篠島は、いつ訪ねてもその時々で体感できる魅力があり、特別な思い出を作ることができるでしょう。ここに来ると元気になる。そんな島のパワーを、のんびりとした時間が流れるなか五感でいっぱい感じていただきたいです。

今回のツアーでは、篠島に初めて来たという方が何人かいました。わずかな時間ではありましたが、歩いて見聞したなかの「どこか」や「なにか」に面白さを感じていただけたらうれしいですし、この島についてさらに興味を深めるきっかけになったら幸いです。

私も、自身の成長につながるとても貴重な経験を得ることができました。
このツアーに参加してくれた皆さん、協力してくれた&しらす食堂2929さん、企画してくれたまいまい東海の事務局の方々に感謝します。

多くの漁船がならぶ漁港

参加者に好評だったシラス丼

貴重な生シラス。産地だからこそ味わえる贅沢な島のごちそうでした