里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資のめぐる。(44)〉ウナギコロッケで地元の特産をPR 「グリルれんが亭本店」代表 都築貴弘さん

〈『日本養殖新聞』2016年2月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

揚がったばかりの熱々をほおばると、ウナギの濃厚な味と香りが口のなかにひろがる。愛知県西尾市にある持ち帰り専門の「グリルれんが亭本店」が販売する「一色産うなぎコロッケ」(1個350円〈税込み〉)。さくっとした衣のなかに、具材として使われている舌触りのなめらかなジャガイモと、刻まれて入っているウナギの絶妙なバランスが、驚きの味わいを生む。風味にこくのあるウナギと、油で揚げたコロッケの組み合わせは相性抜群で、一つ食べ終えるとまた一つ手が伸びてしまう。

人気のうなぎコロッケを開発したのは、同店代表の都築貴弘さん(46)。地元の特産であるウナギを「もっと多くの人に食べてほしい」と試行錯誤をかさね、5年前に完成させた。市内の一色町で毎年5月に開かれる「うなぎまつり」(現みなとまつり)でも提供し、昨年は2日間で1500個を販売した。

都築さんが生まれ育ち、いまも暮らす一色町は、昔から全国有数の養殖ウナギの産地。自宅の近くには、子どものときからウナギを扱う問屋があり、海岸沿いにある町の中学校には、養殖池の間を歩いて通った。ウナギは近所の生産者からおすそ分けをもらい、「小さな頃から食べてきた」。そんな都築さんにとり、ウナギはずっと身近な存在で、いまも幼馴染の多くが養鰻にたずさわっている。

10代半ばのころから料理人になることを志し、さまざまな料理を探究して進む道を模索した都築さん。その過程でスペイン料理と出会い、魅力にひきこまれ、国内だけでなく本場のバルセロナでも修業をつむ。帰国して西尾市内にスペイン料理店を開いたのは27歳のとき。店は繁盛したが、すぐに客席が埋まってしまい、多くの人を待たせてしまう申し訳のなさから、8年間営業した後、業態を変えてグリルれんが亭をオープンさせる。

レストランを経営していた間には、ジェイアール東海高島屋から声をかけられ、催事でスペイン料理を任されるようになり、このことがきっかけで、テイクアウトの面白さに目覚める。多くの買い物客でにぎわう名古屋駅のデパ地下で、何度も経験をかさね、惣菜について学ぶうちに「テイクアウトはお客を待たせない。いつかやってみたいと思った」と、当時の気持ちを述懐する。

持ち帰り専門の店を始め、今年で10年目になる。メニューは、ハンバーグやオムライスなどの洋食の弁当や総菜が中心で、当初は地元の食材との縁はなかった。5年前から食にかかわるさまざまな人たちとの交流が生まれ、地元を代表するウナギやアサリ、お茶などの豊かな農水産物に着目。旬の時期のアサリを使ったナポリタンや抹茶の飲料などを提供するようになる。一色町のウナギについて都築さんは「アプローチしている人がいなかった。コロッケにすれば、子どもからお年寄りまで好まれる。ウナギをもっと幅広く受け入れてもらえるよう作りました」と笑顔で語る。

スペインでも、ウナギは赤ワインで煮込み食べることから着想を得て、コロッケのウナギはしょうゆ、砂糖に赤ワインで味付けし、蒲焼きの風味に洋風のテイストをくわえた。さらに具材にはクリームソースをたし、とろみをつけて食べやすい口当たりに。「地元のウナギをピーアールするきっかけづくりになれば。この地で生まれ生きる自分が、できることを形にしたのがうなぎコロッケです」。苦心して完成させた一品には、食を通して地域に貢献したいという気持ちがこもる。

「手作りで当たり前のことを当たり前にやっていくことがこだわり」という都築さん。市観光協会食部会の副部会長をつとめ、食育にも力を入れる。地元の食材にもっと興味をもってもらうため、特産を使った新たなメニューを開発したいと意欲をみせる。

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