里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(60)」〉町の宝をみんなで守る 和良川のアユ友釣りが解禁

〈『日本養殖新聞』2017年6月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

けっして広くはない川の両岸をおおうように、たくさんの長い竿がならぶ。釣り人たちは、流れのなかの一点を見つめて動かない。清らかな水流は緑の風景のなかで躍動する。岐阜県郡上市の和良町にやってきた。この日、和良川のアユ友釣りが解禁した。友釣りは、なわばりを持つアユの習性を利用し、生きたおとりのアユを糸につないで水中に放す。追い払おうと体当たりしてきたアユを針にかける、伝統の釣り方である。多くの釣り客をむかえた山里は、沸き立つような空気に包まれた。

上空をうめる雲は厚くなったり薄くなったりし、つねに移ろい時折小雨が降る。田んぼが広がる盆地のなか、ひんやりとした心地よいそよ風を受け川沿いを歩いた。和良川漁協近くのあたりでは、釣り師たちが一定の間隔をおいて竿をにぎり、おとりのアユを泳がせていた。

夜明けとともに釣り始め、昼頃に竿をおさめたというウェットスーツ姿の60代とおぼしい男性が、魚信の余韻にひたるかのように川をながめ、立ち尽くしていた。聞けば愛知県から毎年、解禁日にやってくるという。今日の釣果は7匹とまずまず。「アユは場所とおとりが大事」と目を輝かせる。今年も岐阜県内の河川をまわるのだと話す。出会った釣り人との会話から、人びとを夢中にさせるこの魚の新たな魅力を知る。

漁協から少し歩いたところに「和良鮎」の集出荷所がある。ここで釣り師たちからアユを買い取り、地元や県外の認定店に出荷したり小売りをしたりする。運営するのは、漁協の組合員や釣り人らで構成する「和良鮎を守る会」で、夕方に訪ねるとすでに集荷の準備が進んでいた。

午後4時、買い取りの時間が始まると、釣りを終えた人びとがやってくる。同会のメンバーが持ち込まれたアユに傷みがないかを確認し、一匹ずつ重さをはかり、大きさによって六段階に分ける。買い取った分の支払いは、その場で釣り人に現金で渡される。出荷する漁師は登録を行う、扱うのは友釣りであげた活きた和良鮎で、買い取り価格は市場の相場や需要の動向によって変わる。この三つを理解し守ってもらうことが、取引する条件となる。

作業の合間にアユの生育状況をたずねると「和良のアユは体高がでる。今年も順調です」。きらきらと輝く魚体を手にし、同会会長の大澤克幸さん(44)は笑みを浮かべた。

集荷でもっとも神経を使うのは魚の鮮度保持で、持ち込まれたアユはすぐに水の中で通電させ、一瞬で締められる。この方法で締めると体表のぬめりがしっかりと残り、品質が保たれるという。

十分な氷によって保冷されたアユは、急いで冷凍にかけられる。「アユの内臓は5時間で腐ってしまう。わたを食べてほしい」。和良鮎の調理にも精通する大澤さんは、客が食べる場面を想像し魚を大切に扱う。地元の人たちの手によって、町の宝である地域のブランド、そしてアユを育む川は守られている。たゆみない努力の継続が、日本一とも言われる和良鮎の名声をより確かなものにする。

「ぜんぜんかからん。腕が悪くなったかなあ」「まだ味はうすいよ」。集荷が始まると釣り人や地元民らが集まってくる。40匹以上釣り上げた人も、あまり釣れなかった人もいたようだが、釣れても釣れなくてもいろんな話題がうまれ、談笑はたえない。

全国の主要河川が参加する「清流めぐり利き鮎会」で最多受賞をほこるアユの里は、今年もたくさんの期待を受けてにぎわいをみせた。

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