里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(63)」〉石倉かごのモニタリング調査に同行!! 岐阜県山県市の美山漁協が実施

〈『日本養殖新聞』2017年9月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

石倉かごのモニタリング調査が行われると聞いて、9月の初めに岐阜県山県市武儀川に向かった。同市の尾並坂峠付近に水源をもつ武儀川は、関、岐阜市を通り長良川と合流する。本流はアユの釣り場として知られ、さらに上流にのぼるといくつもの支流に分かれ、アマゴも多く生息する。

石倉かごが設置されているのは、山県の東端に近い西武芸橋からすぐ上流のところの左岸で、朝8時頃にバス停から歩いて向かうと、すでにショベルカーが動き、集まった大人たちが作業を始めていた。

石倉かごを見るのは初めて。はやる気持ちを抑えながら橋の下で胴長をはき、人びとの輪に加わる。護岸の改修によって、川は自然の姿を失い、生き物にとって棲みにくい環境に変わってしまった。石倉かごの設置は、ウナギをはじめとする生き物の新たな棲みかをつくる取り組みとして、注目を集めている。

木曽三川の伝統漁」(山海堂)によると、この地方を流れる木曽、長良、揖斐川木曽三川下流、感潮域では昭和30年代まで、ウナギを捕る石倉漁が盛んだった。直径20から30センチくらいの石を積みあげてウナギの隠れ場所を作り、石倉の周囲に網を張り、干潮時に石を取り除いて捕まえたという。

石倉かごを提案している会社の一つ、鹿島建設のホームページには「カゴに石を詰めた伝統工法の『蛇カゴ』と、ウナギなどを漁獲するために石を積んで行う『石倉漁法』を合体させた」ものとある。石倉かごは、ウナギなど食物連鎖の上位にあるものの餌となる生き物の棲みかにもなり、水鳥などからの食害も防ぐという。

特殊な網で包まれ、ロープで重機とむすばれた石倉かごは、川底からゆっくりと引き上げられ、河原へと移される。ブルーシートの上に置かれ、組合員らが網を広げ、生き物がいないかを確認しながら組まれた石を一つひとつ取り除いていく。夏に大雨が何度もあり、石倉には大量の砂礫がつまっていた。水を流して石を洗い、たまった砂礫をかき分けて生き物を探す。「おるおる」。川を熟知する漁師たちからは、何かを見つけるたびに驚きの声があがった。

岐阜県で石倉かごを設置しているのはこの場所のみで、水産庁の支援を受けた事業は前年度から始まった。モニタリング調査は今年5月に続く2回目で、前回は体長約43センチのウナギが1匹見つかったが、この日にウナギは確認できなかった。それでも5月とは別の引き上げた3基のなかからは、ヨシノボリ、ヤツメウナギモクズガニ、カワゲラの幼虫など10種以上の魚や水生昆虫などがたくさん見つかり、生き物たちの棲みかとなっていることがわかった。調査には、県漁連や水産研究所の職員も参加した。

石倉かごの維持には、定期的な点検と修繕が欠かせない。調査の実施には人手と労力も要るが、田中清司組合長は「今後も継続して行っていきたい」と取り組みに意欲をみせる。たくさんのウナギが戻り、棲めるような川を取り戻す。地域で始まった新たな活動に期待をこめ見守っていきたい。

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