里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(70)」〉豊かな川を取り戻すために 愛知県主催の第5回長良川連続講座

〈『日本養殖新聞』2018年4月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

第5回「清流長良川流域の生き物・生活・産業」連続講座が2月18日、名古屋市内で開かれた。愛知県長良川河口堰最適運用検討委員会の主催で、「長良川の魅力を語りつくす!」をテーマに掲げた今回が最終回となった。

この連続講座は、一般を対象に2015年10月から始まった。長良川の伝統的な川漁や食文化などに詳しいゲストを招いて話を聞き、長良川の魅力と河口堰の問題について参加者が理解を深めるために企画された。今回はこれまでの内容をまとめながら、森から海までを見すえた長良川の将来を展望した。

 愛知県では、大村秀章知事と河村たかし名古屋市長が共同公約として「長良川河口堰の開門調査」を掲げており、2011年に「長良川河口堰検証プロジェクトチーム」が発足。現在の委員会に引き継がれた。河口堰の最適な運用と環境保護の実現を図るため、開門調査を提案し、国との話し合いを求めている。

 講座で講演したパタゴニア日本支社の辻井隆行社長は「川は血液である」と話し、つながっている森川里海における川の重要性を訴えた。また荒瀬ダムを撤去し、自然が戻りつつある球磨川熊本県)について説明。佐世保市の水の確保と、川棚川の洪水防止を目的に建設計画が進む石木ダム(長崎県)については、利水において行政の予測と実績の数値にかい離があるなどの問題点を指摘した。住民が暮らすふるさとを奪い、県民に多額の税金負担を強いることから、十分な理解のもとで議論を重ねることの大切さを強調し「アメリカではダムが必要な人、必要でない人がちゃんと話し合いをしている」と語った。

 講演に続いて行われたパネルディスカッションでは、辻井氏、平工顕太郎氏(ゆいのふね代表・長良川漁師)、鈴木輝明氏(名城大学特任教授)、蔵治光一郎氏(東京大学大学院教授)、武藤仁氏(長良川市民学習会事務局長)の5名が登壇し、意見を交わした。

 「森林にも緑のダムの機能がある。それを評価すべき」(蔵治氏)、「ウナギを身近な問題としてとらえる。河口堰、ダム、川のコンクリート化を改善していくことに力を貸してもらえないと大変なことになる」(鈴木氏)、「ダムのない長良川に河口堰をつくろうと言ったのが愛知県。建設した責任がある。他の県の問題ではない」(武藤氏)、「時代に合わせて身近な暮らしを丁寧にすることが川を守ることに直結する」(平工氏)などのさまざまな発言がそれぞれの立場からあり、参加者は聞き入った。

最後に元青山学院大学教授・愛知県政策顧問の小島敏郎氏が、開門調査についての議論を国交省に呼びかけている今の状況を「県民の人たちに知らせていく」ことが重要であると述べ、地方からの粘り強い運動によって国を動かしていく必要性にも触れて講座をまとめた。

2010年に愛知県で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」では、50年までに自然と共生する世界の実現を目指して「愛知目標(愛知ターゲット)」が採択された。このうちの個別目標には「水産資源が持続的に漁獲される」「絶滅危惧種の絶滅・減少が防止される」がある。愛知県が環境において真のリーダーシップを発揮できるかは、長良川を再生できるかどうかにかかっている。

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