里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(74)」〉ウナギの聖地で供養を行う 岐阜県郡上市・粥川で地元の調理師会が主催

〈『日本養殖新聞』2018年8月25日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

ウナギを神の使いとして守っている岐阜県郡上市美並町の粥川(かゆかわ)で7月25日、ウナギ供養祭が行われた。主催したのは郡上調理師会で、美並観光協会、郡上漁協との共催。会場となった星宮(ほしのみや)神社には関係者ら約20人が出席し、供養を行い境内の池にウナギを放した。

ウナギを扱う市内の調理師らが感謝の気持ちをこめて行う供養祭は、毎年この時期に実施されている。主催者によると、元は地元の人びとによって始まり行われていたが、10年前から郡上調理師会が開いているという。

 供養の場となった星宮神社は、長良川の上流にある瓢ケ谷(ふくべがたけ)を源とする粥川谷にある。この地には、天暦(てんりゃく、947~957年)年間に藤原少将高光が、ウナギの道案内によって妖鬼を退治したという伝説が残っている。粥川谷は「ウナギの生息地」として国指定の天然記念物になっており、この地区の住民はウナギを神の使いとして保護し、食べないことで知られている。

 「ここではウナギは神さまの扱い。特別な場所なんです」と参加者の一人が言う。禁漁区になっている神聖な谷で行われる供養は、ウナギで商う感謝だけではない、もっと深い意味合いをもった神事であるように思えた。

厳かな雰囲気のなか神社の拝殿のなかで供養祭が始まる。主催者を代表して郡上調理師会の林健吉会長が「ウナギの命をいただいていることに感謝します」と挨拶。郡上漁協の笠野尚之組合長は「ウナギは日本の食に欠かせない。大切に育て守っていかなければ」と述べた。岐阜県関保健所郡上センターの小林香夫所長、郡上市議会の古川文雄議員も地域の振興とウナギ食文化の発展を願う言葉などを述べた。

供養の神事が終わると、参加者は境内の池に移動し、用意された養殖のウナギを放した。粥川のウナギについて、「昔はさなぎをあげると出てくる。それくらいたくさんいました」と、郡上調理士会美並支部長の林正人さんは話す。橋の上から川幅の狭い澄んだ水のなかをのぞいてみた。ウナギを見つけることはできなかったが、きっとどこかにいて、この地域を見守っているのではないかと感じた。

粥川谷に向かう道中、60代と思しき男性のタクシー運転手からは、昔あったというこんな出来事を聞いた。他県への旅行で一行の世話役を務めたが、泊まった旅館で出された料理の茶わん蒸しのなかにウナギが入っており、粥川から参加していた老人が激怒したという。粥川でどれくらいウナギが大切にされていたかがよくわかる話である。

語り継がれている伝説や風習から、粥川では自然と人が近くにあると感じる。だから命を大切にする気持ちが残っている。この地区にとって、ウナギは今も敬うべき生き物なのである。

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