里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(83)」〉新漁業法の問題点を探る 丸亀市で食と漁の地域未来フォーラム

〈『日本養殖新聞』2019年5月25日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

「『新漁業法』は沿岸漁業と漁協経営にどのような影響をおよぼすか」をテーマにした第2回食と漁の地域未来フォーラムが4月6日、香川県丸亀市で開かれた。

主催したのは、全国沿岸漁民連絡協議会(JCFU)と香川県中讃地区漁業組合連合会で、4名の専門家による報告と討論が行われ、県内外から約400人の漁業関係者らが参加した。

司会を務めたJCFU事務局長の二平章氏は、2013年の第183回国会において安倍総理が施政方針演説で掲げた「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指し、聖域なき規制改革を進め、企業活動を妨げる障害を一つひとつ解消する」ことが、現政権の農漁業政策の基本にあると指摘。海での企業利益の障害となるものに漁業権、漁協、沿岸漁民があり、これらを規制改革で壊すのが狙いであると説明した。

東日本大震災からの創造的復興を掲げ、宮城県村井嘉浩知事が漁協の反対を押し切って2013年に導入し、漁業権を民間企業にも開放した水産業復興特区(以下、水産特区)。同県の海区漁業調整委員会(以下、調整委員会)委員の赤間廣志氏は、水産特区について同委員会の議論で相当の抵抗があったことを明かし、「このことが起因となって、今回の漁業法の改正では調整委員会の骨抜きに一番力を入れたと思う」と話した。

さらに赤間氏は、新漁業法で調整委員会の公選制が廃止され、知事の任命制になったことについて、水産特区が導入された経緯を例にあげて「(知事の)恣意的にならざるを得ない。漁業を心配する意見を知事に言える、そういう委員が出て来るのか」と懸念を表した。

福井県立大学名誉教授の長谷川健二氏は、新漁業法の内容について、市場の競争メカニズムにまかせておけばよいとする新自由主義的な発想に基づく規制緩和と、これまでの調整委員会や漁協による自主管理から行政主導の官僚主義的管理への移行があると示した。

そのうえで長谷川氏は、新漁業法が持つ反民主的性格として、①戦前の先願主義の復活②漁協を主体とした漁業・養殖業の自主的管理システムの破壊③小規模・零細漁業者にも生活権としての漁業の行使権が与えられた民主化理念の否定④調整委員会の漁民主権の否定⑤大手水産に有利なIQ(個別割当)からITQ(譲渡性個別割当)化、許可制度のトン数規制の撤廃への道を開く可能性―をあげた。

旧法と全く異なる新漁業法は、漁業の民主化を大きく後退させるものである。資源管理だけに焦点を当てていては、改革の本質は見えてこない。企業のための規制撤廃と輸出を軸にしたアベノミクスの成長戦略の一環であり、農業はすでに地ならしを終え、残っていたのが漁業なのである。

フォーラムでは、新漁業法への対応についても意見が交換された。非常に重要な部分となるので、また紹介したい。

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