里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(89)」〉都会の川にウナギはいるのか  愛知県長久手市の鴨田川を辿る

〈『日本養殖新聞』2019年11月15日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

矢田・庄内川をきれいにする会による「水辺の再生と川の健康診断」の催しが10月27日、愛知県名古屋市で開かれた。矢田川庄内川は、それぞれ尾張地方を流れる同じ水系の一級河川で、同市内で合流する。本流の庄内川は、名古屋を流下する最大の河川である。

会場となったのは、名東区守山区の境界を流れるあたりの矢田川で、会員をはじめ一般の親子、教員や学生らが多数参加した。

河原を訪れると、たもを手にした子どもたちによって、さまざまな生き物が採集されていた。どんな魚がどれだけいるか。生き物が棲みやすい環境になっているか。催しでは水質についても調べ、川の健康状態をみんなで確認し、意見を交換した。

この日にウナギは見つからなかった。それでもモツゴ、オイカワ、カマツカテナガエビモクズガニ、ヤゴの仲間など、外来種も含め10種を超える生き物を観察することができた。

矢田川は、この会場から1.5キロくらい下ったところで香流(かなれ)川と合流する。香流川の支流に、愛知県長久手市から隣接する名古屋市名東区にかけて、約3キロの距離を流れる小さな川がある。長久手では鴨田川、名古屋に入ると藤の木川と呼ばれる、庄内川水系準用河川である。

町のなかを流れる小さな川の源流がどこにあるのか、藤の木川を名東区香流川との合流点から辿ってみることにした。

藤の木川は、住宅の密集した都会で多く見られる典型的な河川である。河床と両岸は、コンクリートですき間なくしっかりと固められている。平時の水深は10センチもなさそうで、川幅は3メートルくらいか。所々に落差がある。水をよどみなく流そうとする、人間の都合を優先した排水路のような環境では、身を隠すようなところもない。ここで生き物が暮らすのはかなり厳しそうだ。

何かいないか探してみたが、見つけたのは一匹のアメンボウと数羽の水鳥だけ。変化の乏しい人工的な景観は、長久手市内の「はなみずき通駅」近くまで続き、そこから先は暗い地中へと消えていた。古地図(愛知郡長久手村絵図・年不詳)を読むと、鴨田川の源流は駅から約1キロ南の杁ケ池にあることがわかる。

では、現在の鴨田川にウナギはいるのか。長久手市では、町史編纂のため1980、81年度に最後となる動植物の現地調査を実施している。町史(83年)にウナギの存在を確認したという記録はないが、10年前(73年)には鴨田川にもいたと書かれてあった。

本流の庄内川、その支流の矢田川では、今もウナギの生息が確認されている。さらに香流川にも、十分な水量と隠れ場になりそうなところは多くあり、ウナギが登っている可能性がある。

30年以上も昔のことになるが、子どもの頃、名古屋市内のため池で、ウナギを釣り上げたことがある。この池も、藤の木川と同じような小さな都市河川の源流となっており、名古屋港に注いでいた。強靭な生命力を持つウナギであれば、鴨田川を遡上して杁ケ池までたどり着き、棲んでいる個体がいるかもしれない。

自分たちの町を流れる川に目を向けてみてほしい。どんな小さな流れも、海とつながっている。

私たちは地域でずっと継承されてきた、自然との共生の精神をどこかへ置き去りにしてしまった。本当の幸せ、豊かさとは何なのか。ウナギの姿を追いながら考えたい。 

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