里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】唐揚げが人気!刺身でも焼いてもおいしい、旬を迎えた蒲郡のメヒカリ

〈『DoChubu』2009年12月7日更新、2020年4月19日加筆修正〉

みなさんはメヒカリという魚を知っていますか?正式な名前はアオメエソ。体長は15~20センチぐらいで、相模湾から東シナ海の水深200~300メートルにすんでいます。愛知県では、水揚げの9割以上が蒲郡市の漁港で、地元では昔からメヒカリと呼ばれている魚です。旬の季節は冬から春まで。脂ののった白身は、唐揚げや姿焼き、刺身でもおいしく食べることができます。地元の蒲郡漁協では、このメヒカリを地域の魚としてブランド化しようと力をいれています。そんなメヒカリを見ようと、産地の形原漁港をたずねてみました。

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三重県沖の熊野灘で獲れたメヒカリ

形原漁港の魚市場を訪れたのは、寒さも厳しさを増してきた11月下旬のとある日。漁港には夜明け前の午前3時半に到着しました。早速、荷捌き場へ向かうとキス、タチウオ、スルメイカ、シャコ、ワタリガニアカガイ……。明かりに照らされて輝く、たくさんの魚介類が目に飛び込んできました。すぐ横に接岸した漁船からは、いろんな種類の魚が水揚げされ、漁業者が素早く仕分けして、黙々と木箱につめています。そんな場面を見ながら歩いていると、箱にぎっしりと詰まったメヒカリを見つけました。

「今日はちょっと少ないし、このサイズは小さいよ」。

近くにいた若手の漁業者が教えてくれます。近づいてよく見ると体長は10~15センチぐらい。この魚の特徴は大きな目です。フラッシュをたいてカメラで撮影すると、その名のとおり、目が光ります。

メヒカリを見ているうちに、4時を過ぎてセリが始まりました。荷捌き場は、大勢の仲買人でいっぱいです。セリ人の掛け声が響くなかで目当ての魚を仕入れようと、どの仲買人も表情は真剣そのもの。競り落とされた魚は、次々とトラックに運ばれていき、魚市場はあわただしさを増します。セリが終わる5時半ごろまで、この熱気は冷めることなく続きました。この日は124箱、約3トンのメヒカリが水揚げされ、1箱(約24キロ)当たり8000~8500円の価格で取り引きされました。

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水揚げされたばかりのメヒカリ

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この日も魚市場にはたくさんの魚がならび、セリにかけられていました

メヒカリのほとんどは、沖合底引き網漁によって漁獲されています。県内では蒲郡漁協に所属する4隻の漁船がこの漁を行っています。

「漁獲は安定しているよ」と話すのは精漁丸の船長、加藤順嗣さん。漁師歴37年になるベテランです。県内では最大となる40トンクラスの漁船に8名が乗り込んで操業しているそうです。現在の漁場は三重県沖の熊野灘で、この日はメヒカリのほか、エビやムツ類なども多くの種類を水揚げしていました。

いま、加藤さんが気になっているのは海のゴミの多さ。漁をしていると、自転車や冷蔵庫、テレビなどが網にかかるそうで、以前に比べてその量は増えているそうです。魚の資源についても、「使い切ったら絶えてしまう。獲り過ぎないようきちんと残していかなければ」と話し、日々の操業で感じていることを教えてくれました。

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「今日の水揚げはメヒカリが一番多かった」と笑顔で話す船長の加藤順嗣さん。漁や海の環境について教えてくれました

魚嫌いな子どもでも食べることができる魚

形原漁港の近くにあって、地元でとれた鮮魚や干物などの加工品を製造、販売している「味のヤマスイ」。同店では早くからメヒカリの唐揚げをメニュー化し、いまでは人気商品となっています。店長の山本将嗣さんは「ここ1、2年で地元でのメヒカリの消費が増え、認知度もあがってきた」と話します。唐揚げはもちろん、天ぷらや刺身にしてもおいしいことから、地元の居酒屋、旅館で使われるケースが増えているそうです。

「身がやわらかいから、魚嫌いな子どもでも食べることができる。親からも感謝されていますよ」と話すのは同店の女性従業員。揚げたてを試食させてもらいましたが、くせのない白身が唐揚げの味付けにとってもあいます。骨もまったく気にならず、ご飯のおかずにも酒の肴にもぴったりな味でした。

形原漁港でのセリが終わって午前6時をまわったころ、形原漁港から歩いて近くの西浦漁港へ向かいました。漁港前にある蒲郡漁協西浦マーケットでは、その日に水揚げされた魚や加工品を扱う店がならび、消費者向けにお値打ち価格で販売しています。

「メヒカリはおいしいから人気があるよ。大きいものは煮付けや塩焼き。小さいものは唐揚げで食べて」と、店の年輩女性が笑顔で教えてくれます。この店では、一皿に30~40尾が入った小型サイズのメヒカリを400円で販売していました。この日は冷え込みの厳しい朝でしたが、早くから新鮮な魚を買い求める地元の客でにぎわっていました。

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「味のヤマスイ」でいただいたメヒカリの唐揚げ

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新鮮な魚介類がならぶことから多くの客で賑わう蒲郡漁協西浦マーケット

蒲郡漁協では、メヒカリをみかんや三河木綿に続く新たな地域のブランドにしようと、「蒲郡メヒカリ」の商標登録を検討しています。市や県の協力も得て、イベントで試食を実施するなどピーアールにも力を入れています。

市外での認知度はまだまだ低い魚ですが、唐揚げは試食でも人気で、刺身でも焼いてもおいしいことから、地元を中心にさらなる消費拡大が期待されています。同漁協では来年2月6、7日に市内で開催予定の農林水産フェアにも出展し、メヒカリの試食などを計画しています。

この日は朝の3時半から11時ごろまで、形原、西浦漁港を見聞きし、ひたすら歩き続けました。たくさんの魚がならび、多くの漁業者や仲買人でにぎわう朝の漁港は、何度みても迫力があって圧倒されます。明け方の冷え込みが想像以上だったからか、その日の夜から風邪で寝込んでしまいましたが、今回もいろんな人と出会って話を聞くことができ、新たな発見と感動で充実感にみちた取材でした。次に訪れたときは、唐揚げはもちろん、刺身や姿焼きのメヒカリも味わってみたいと思います。(新美貴資)

※記事に記載されている価格は、取材当時のものです。

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