〈『DoChubu』2011年10月12日更新、2020年4月22日加筆修正〉
伊勢・三河湾とその流域でとれる旬の魚介類を調理して味わう、なごや環境大学の人気の講座「味わって知る わたしたちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の今年度(2011年)第4回目が2011年9月15日(木)に名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。
今回のテーマは、「海の外来種を食べよう!」。海外から持ち込まれた魚介類で、伊勢・三河湾でも見られるムラサキイガイなどを調理して味わいました。ムールガイとも呼ばれるヨーロッパ原産のムラサキイガイは、船舶の底についたものやバラスト水に混入していた幼生が国内に持ち込まれ、現在は各地で広く分布しています。港の岸壁にびっしりと付着した黒い貝を見たことがある方も、きっと多いかと思います。食用としてはあまり馴染みのない貝ですが、ヨーロッパでは料理の食材として一般に使われています。
ムラサキイガイと同じように、国内の港湾で生息が確認されている外来種の貝にミドリイガイがあります。今回の調理では、ミドリイガイによく似たバーナガイと呼ばれるモエギイガイが使われました。ムラサキイガイ、モエギイガイとも伊勢・三河湾産の入手が困難だったため、輸入物を使って調理しました。この他、国内では西日本に分布するワタリガニの一種で、元々は伊勢・三河湾にはいなかったのですが、近年漁獲されるようになったタイワンガザミも調理して味わいました。
講師を務めたのは、この講座を主催する山崎川グリーンマップの代表・大矢美紀さん、名古屋大学大学院環境学研究科研究員の秋山吉寛さん。一般から約30名が参加し、伊勢・三河湾で獲れる海の外来種を調理して味わうという、いつもとはすこし異なる内容で地元の海について学びました。
鮮やかな色をした外来種に興味津々
今回つくる料理は、「タイワンガザミの塩ゆで」「ムラサキイガイとモエギイガイのオーブン焼き」「トマトそうめん(地ダコ入り)」です。
水からゆでると足がとれにくいタイワンガザミは、鍋に入れてから熱を加えていきます。すこし経つと黒っぽい甲羅は鮮やかな赤色に。食欲をそそる熱々のタイワンガザミに、参加者のみなさんも笑みがこぼれます。
すでにボイルしてあるムラサキイガイとモエギイガイは、殻を開いてしっかりと洗います。刻んだニンニクとチーズを、殻の上に乗る黄色がかったプリプリの身にたっぷりとふりかけて、オーブンでじっくりと焼き上げていきます。
珍しい外来種の調理に、参加者のみなさんも興味津々の様子で、厨房はいつも以上のにぎやかさであふれます。貝をオーブンから取り出すと、ふりかけたパン粉がほどよくカリッと焼き上がり、胃袋を刺激するニンニクとチーズの香りに、空腹感が一気に増してきます。
身のたっぷりつまったタイワンガザミ
料理ができあがったら、早速みなさんと一緒に「いただきます」。今回も見た目がとても華やかなメニューです。最初に箸を伸ばしたのは「トマトそうめん」。トマトとめんつゆの相性が驚くほどぴったりあいます。めんつゆで食べるのにすこし飽き気味だった記者にとっては新たな発見。ゆでたタコや大葉、ミョウガがよいアクセントになって、大盛りのそうめんがどんどん進みます。
「ムラサキイガイとモエギイガイのオーブン焼き」は、程よく弾力のある身にニンニクやチーズ、バターの味が加わって、1つ2つと食べだしたら止まらないおいしさ。ビールやワインを飲みながらでも、きっとおいしくいただけると思います。
そして豪華なもう一品の塩ゆでしたタイワンガザミ。まずは大きなはさみ脚を豪快にもいで、太い脚肉をいただきました。関節をひねりながらひっぱると、たっぷりな身が現れ一気にかぶりつき、夢中になって食べ続けました。最後は大きな甲羅を開いて、中につまっていた濃厚なミソをゆっくりと堪能しました。
食用としての利用が拡大を防ぐ
食事が終わった後、海の外来種について講師の大矢さん、秋山さんから話をうかがいました。
大矢さんは、「本来の生息地ではない他地域に、人為的に持ち込まれた生物」である外来種が、「生態系や経済に大きな影響を与え、環境問題の一つになっている」と指摘しました。外国からの船舶によって持ち込まれたムラサキイガイは、数年前まで名古屋港の岸壁にも大量に付着していましたが、ここ数年は減少傾向にあるそうです。
大矢さんは、減少の理由について、海水温の上昇による影響ではとみています。南知多町の磯でも、岩場に大量に付着するムラサキイガイをかつては見ることができたそうですが、今年は海の中にもぐってもほとんど確認できなかったそうで、「ここ数年の夏場の暑さで高温に耐えられず、数が減っているのでは」と現状について報告しました。
続いて秋山さんが、外国から持ち込まれたホンビノスガイという二枚貝について、その生活史や生息域などについて説明しました。
北米やヨーロッパで食用とされているホンビノスガイ。国内では1998年に東京湾で初めて確認され、湾内で生息しているそうです。この貝による環境への被害は、今のところ報告されていないそうですが、「湾内の多くの生き物が食物連鎖で関わっており、どこに悪影響が及ぶかわからない」と、外来種の侵入によって従来の生態系が壊れる危険性を指摘。秋山さんは、外来種の生息域の拡大を防ぐ一つの方法として、食用として利用を図っていくことを提案しました。
また、漁業資源のアサリを捕食することで大きな問題となっている巻貝、サキグロタマツメタについても説明しました。古くから西日本に生息していた貝ですが、90年代頃になって中国から輸入したアサリのなかに混入していたとされるものが各地に広がり、アサリの食害問題を起しています。秋山さんは、干潟の減少や水質の悪化、乱獲によって国内のアサリ資源が減少すれば、輸入物が増えてサキグロタマツメタの侵入するリスクが高まると警告します。アサリの漁場環境を改善して国産の生産量を増やすことが、サキグロタマツメタの撲滅、さらにはアサリ資源の回復にもつながると訴えました。
多くの国々と行き交う船舶などによって、たくさんの外来種が国内に移入しています。その一方で、日本から持ち込まれたワカメが外国の港湾で繁殖し、食用としない国では厄介者として問題になっているそうです。外来種の侵入は、それまで調和を保ってきた自然の生態系を壊す恐れがあり、自然の恵みから食料を得ている私たちの生活にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
こうした外来種の問題とどのように向き合い、解決を図っていくべきか。これまでにない視点から地元の海について考える、よいきっかけとなった今回の講座でした。
(新美貴資)