里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】柳橋市場で鍋をかこみコミュニケーションを深める!なごや環境大の第5回「日本人と魚」

〈『DoChubu』2012年5月12日更新、2020年4月22日加筆修正〉

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午前8時すぎの柳橋中央市場。客や市場関係者があわただしく行き交います

「食の大切さと人と人のコミュニケーションを柳橋中央市場で学ぶ!」をテーマに、なごや環境大学の共育講座「日本人と魚」(主催:同市場青年部食育応援隊)の第5回が
2012年2月4日(土)午前8時半より、名古屋市中村区の同市場内で開かれました。市場で初の試みとして企画されたこの講座も今回が最後。回を重ねるたびに参加者の数は増え、この日は40名近くが受講しました。

受講者したみなさんは、まずは市場のなかを歩いて見学。新鮮な魚がたくさんならび、威勢のよいかけ声が飛び交う、朝の市場のにぎわいを体感しました。講座を主催する食育応援隊の鈴木正明さんが営む「魚友」では、店頭で売られている魚について説明を受け、市場での買い物も。

このあと、鈴木さんが市場で扱ういまが旬の魚について、中部水産取締役部長でおさかなマイスターの神谷友成さんが、鍋のおいしい食べ方や楽しみ方などについて講義。調理体験もあり、参加者はマイワシの手開きに挑戦し、つみれ汁をつくって味わいました。このほかにも、タラやホタテ、カキやイセエビなどの魚介類を使った鍋が主催者よりふるまわれ、全員で堪能しました。

コミュニケーションを楽しむ

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店には全国の産地で揚がった新鮮な魚がたくさんならんでいました

この日も鈴木さんが営む「魚友」には、全国の産地から運ばれてきた、たくさんの魚介類がならんでいました。アオサは味噌汁で、カレイは唐揚げがおいしいよと、店頭にならぶ商品について、鈴木さんはおいしい食べ方も一緒に説明します。スーパーマーケットや街の魚屋では見ることのない魚も多く、参加者からは、名前や食べ方、保存の方法などをたずねる声が次々とあがっていました。

おすすめの魚やおいしい食べ方などをたずね、コミュニケーションをしながら購入するのが、市場をめぐる大きな楽しみ。店の販売員と会話をしながら、好みの魚を見つけ買い求める参加者。なかにはこの講座を何回か受講し、手提げ袋を用意して魚をえらぶ、市場での買い物にすっかり慣れた様子の方も。家族がかこむ今晩の食卓にあがるのでしょうか。よい魚を手に入れることができた満足感が、みなさんの浮かべる笑みから伝わってきました。

言葉で伝えることが大切

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参加者が手開きに挑戦したマイワシ

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この日の鍋の具材に使われた新鮮な魚介

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上手な手開きのやり方を参加者にアドバイスする神谷さん

続いて場所を会議室にうつし、鈴木さんが春に獲れる旬の魚介として、シラウオサクラマスなどをあげて説明。カツオのほかにも、貝類ではアサリやアオヤギがこれからおいしい季節に入り、梅雨になるとイサキやハモが旬を迎え、四季ごとにいろんな魚が獲れると話しました。市場では多くの魚を豊富にとりそろえており、「来ると旬を感じてもらうことができる。季節を味わってください」とアピールしました。

神谷さんは旬について、
①その季節にたくさん獲れるもの、
②脂が増える時期のもの、
③文化のなかで根付いたものーの3つがあると紹介。
夏の土用の丑の日に食べる風習のあるウナギも、本来の旬は秋から冬にかけてであることを説明しました。

今回の講座でも味わう鍋料理については、「コミュニケーションに最高の食事」と述べ、家庭やいろんな場所で味わい、会話をしながら楽しむことの大切さを強調。「食について大人から子へ教える必要がある。聞いていればいつかかならず思い出します。いろんなことを伝えてください」と参加者に呼びかけました。

調理体験では、神谷さん、鈴木さんの指導を受け、大人も子どもも全員がマイワシの手開きに挑戦。さばいたマイワシを包丁でたたいて味噌などとまぜ、つみれ汁をつくりました。鈴木さんが大きなマダラをとりあげ、見事な包丁さばきを披露すると、大きな歓声があがりました。

「自分のもっている予算のなかでおいしいものをつくるのがポイント。経験をつんで楽しく味わって」と鍋料理を楽しむコツをアドバイスする神谷さん。この講座の第1回から講師をつとめ教えてきた、「どんなことも言葉にしないと伝わらない」という、食を通したコミュニケーションの大切さを説いて、参加した一人ひとりに声をかけていました。

講座を受けて市場のファンに

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名古屋の南西部から三重・木曽岬町あたりにかけて伝わる 郷土料理「ボラ雑炊」もふるまわれました

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参加者が手開きしたマイワシでつくったつみれ汁

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5回にわたり開かれた講座を企画・運営した魚友の鈴木さん(右)、小島嘉美さん

講座の最後にふるまわれたのは、カキやイセエビ、ヤガラなどの入った、味噌仕立ての豪華な海鮮鍋。このほかにも、ダシのきいたしょうゆベースの鍋やつみれ汁、名古屋の南西部から三重・木曽岬町あたりにかけて伝わる郷土料理の「ボラ雑炊」も提供され、参加者は舌鼓をうちました。

食事の後は、受講した全員が一人ずつ自己紹介。「楽しくておいしかった。市場は初めてだったが、また来ようと思う」「いろんな料理のつくり方を教えてもらい、嫌いなものも食べることができた」といった女性のほか、「柳橋へ入りやすくなった。昨年の歳暮に来たが盛況だった。今年も女房を連れて買いに来たい」「市場のファンになって遊びに来たい」といった男性も。

小さな子どもを連れ家族で参加した父親からは、「子どもに魚を身近にふれてほしいと思い参加した。社会勉強になった」との声も聞かれました。

講座の終了にあたり、企画・運営をした魚友の鈴木さん、小島嘉美さんが挨拶。鈴木さんは、「これをご縁に市場に来て、どんどん魚について聞いてください。講座を始めて、わたしたち自身も学び、楽しむことができました」と、参加者にお礼の言葉を述べ、5回にわたる講座は大きな拍手のなかで閉会しました。

たくさんの新鮮な魚がならび、個性あふれる専門店が軒をつらね、威勢のよい掛け声が飛び交い、人々が忙しく立ちまわる。そんな市場を訪れるたびにたくさんの元気をもらい、他では味わえない圧倒的な雰囲気に魅了され続けました。新鮮な魚の選び方や保存の方法といった生活に役立つ講義、いろんな魚介を自らさばいて味わう調理体験など、毎回工夫をこらした講座の内容は、市場のなかで行うことでより身近な体験となって、参加した一人ひとりの記憶にしっかりと刻み込まれたのでは。

講座の受講者は、魚をよく購入すると思われる主婦の方々を中心に、魚食に関心のある年輩の男性、小さな子どもを連れた家族や母親、若い夫婦などさまざまで、大人も子どもも、魚に詳しい人もそうでない人もそれぞれにいろんな驚きや発見、学びがあったようです。

今回の講座で、魚好きはもちろん、市場のファンも確実に増えたことでしょう。生産と消費をつなぐ食のプロが活躍する市場が、魚食の魅力を伝える拠点としてさらに機能を発揮し、新たなコミュニケーションがどんどん生まれることを期待したいです。

(新美貴資)

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