里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】休耕農地を有効活用。安心・安全にこだわり季節にあわせた野菜を栽培する「ぱぱな農園」

〈『DoChubu』2012年8月4日更新、2020年4月23日加筆修正〉

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伊那食品工業の「かんてんぱぱガーデン」の近くに広がるぱぱな農園

特集の取材で伊那市を訪れたのは2012年4月27日(金)のこと。「かんてんぱぱガーデン」のなかにある伊那食品工業の本社を訪問し、話をうかがった後に向かったのは、同社のグループである農業生産法人有限会社のぱぱな農園です。

ここでは「農地荒廃の防止と65歳以上の再雇用」をかかげ、地域の休耕農地の有効な活用を目的に事業を展開しています。人の手がはいらず放置されたままの農地は荒廃がすすみ、環境や景観などに悪い影響をもたらすことから、全国でも問題が深刻化しています。ぱぱな農園では、定年退職をしてからも元気な人たちを再雇用し、生きがいをもって働くことができる場を提供。地元で使われなくなった農地の活用を促進し、新たな雇用の創出にも力を入れています。

「かんてんぱぱガーデン」のすぐ近くにある農園では、安心・安全にこだわった季節の野菜や米を生産。収穫した農産物は、「かんてんぱぱガーデン」のレストランで味わうことができるほか、売店でも販売され、社員の給食にも使われています。また、全国各地にある支店でも、毎月1回土曜に開かれる直売会で購入することができ、多くの人から好評を得ているそうです。

海藻の残りカスはすべて再利用

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海藻から寒天を製造する際に残るカスを海藻土壌改良材「アガーライト」として再利用しているぱぱな農園の工場

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寒天工場から運びこまれた大量の海藻の残りカス

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とてもやわらかい海藻の残りカス。磯のにおいもあまり気になりませんでした

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製造され袋につめられた「アガーライト」はぱぱな農園の工場でも販売されています

ぱぱな農園が行っているユニークな取り組みの一つに、寒天をつくる際に原料の海藻から発生してしまう残りカスの再利用があります。取締役の青木一夫さんに案内してもらい、さっそくリサイクルを行っている工場を見せてもらいました。

海藻のミネラルが豊富につまった寒天の残りカスを再利用し、同社が製造しているのが寒天土壌改良材「アガーライト」です。海藻のテングサやオゴノリが主な原料で、植物の成長に欠かせない鉄やカルシウム、マグネシウムなどのミネラル類を豊富にふくんでいることから、農作物のおいしさや実入りをよくするのだとか。この「アガーライト」には、「パーライト」という真珠岩を高温で熱処理した土壌改良材もふくまれていて、土の通気性や保水性が高いそうです。

「アガーライト」をつくる工場の倉庫には、灰色っぽい小石のような塊が大量に集められていました。さわってみると表面は適度に乾燥していて、若干磯のような香りを放っています。力を入れるとすぐにくずれてしまうやわらかさです。ここに伊那食品工業から排出される毎日10トン、ダンプカー2、3台分の寒天の残りカスがすべて運ばれてきます。年間では約2500トンもの廃棄物を受け入れ、すべてをこの工場で再利用しているのです。工場の建物のなかでは、残りカスの塊を機械で粉砕し、袋につめる作業が行われていました。

海藻のミネラルがたっぷりとつまった「アガーライト」は工場でも購入することができ、地元伊那を中心に県外からも農家がトラックで乗りつけます。ちょうど訪れた時期は、忙しい農繁期のため販売量が多く、工場にある残りカスは少ないとのことですが、普段は倉庫内に山のように積まれているそうです。

「アガーライト」は、発酵させたほうが土にまぜたときにより早く植物が吸収できるそうで、「将来は半年ほどしっかり攪拌し、発酵させたものを製品としてだせれば」と、青木さんは案内を続けながら語ります。

この工場はリサイクルの推進に功労があったとして、1996年(平成8年)に農水大臣賞を受賞。リサイクルの優れた先進的事例として、国からも評価を受けています。ほかにもこの工場では、「かんてんぱぱガーデン」のレストランで発生した生ゴミを堆肥にかえ、自社の農地に使う試みを行っています。

自分たちでできることはやる

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ぱぱな農園の広い敷地には見たこともないような長いビニールハウスがならんでいました

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ナスやカボチャ、ミニトマト、稲など育てているたくさんの種類の苗を見せてもらいました

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ビニールハウスのなかで作業中の職員のみなさん

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工場や農場を案内してくれたぱぱな農園の青木さん。日に焼けた笑顔とやさしい語り口が印象的でした

「自分たちでつくるものは種からまいて育てるのがポリシーです」と話す青木さん。農園にならぶビニールハウスでは、育てている最中のいろんな野菜の苗を見せてもらいました。

夏場に栽培する野菜の一番のメインはナスとのこと。種をまいてからまもなく1ヶ月。5月末ぐらいまで育て、花の芽がついたら畑へ植えかえます。ほかにもカボチャやミニトマト、ネギなどの苗が、すくすくと元気に成長していました。トウモロコシはちょうど一昨日畑に種をまいたそうですが、収穫時期が一度に集中しないよう、すこしずつ日をずらして行うのだとか。

また田植えの時期も夏場に高温障害があるため、以前よりは遅らせているそうです。近年の猛暑によって、夏に咲く稲の花の受粉がうまく行われず、実った米も白くにごり乳白しまうため、等級が落ちてしまうといいます。うかがう話はどれも知らないことばかり。伊那谷の澄んだおいしい空気や四方に広がる雄大な景観に目を奪われながらも、青木さんの話に意識を集中させました。

聞けば農園に建つビニールハウスも、生産をやめた近隣農家から廃材をゆずってもらい、社員でつくったのだそう。「普通は業者に頼んでやってもらうのでしょうけど、自分たちでできるところはやろうと」。日に焼けた青木さんの表情がたくましさを増します。多くの人手が要るビニールを張る作業では、伊那食品工業の社員が助っ人でかけつけて応援。助け合う「結い」の精神が、しっかりと根を張っています。

もともと食に興味があり、かつては米づくりを行う別の農業法人で働いていたという青木さん。現在の伊那食品工業の発展の礎を築いた塚越寛会長の著書と出会い、同社の働く人や環境、地域を大切にする理念に強く惹かれ、縁があってぱぱな農園で汗をかくことに。美しい風景が広がる伊那谷で、土を相手に充実した毎日を送る様子が、穏やかさと精悍さをあわせもつ青木さんの表情からはしっかりと伝わってきました。

(新美貴資)

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