〈『DoChubu』2013年3月6日更新、2020年5月15日加筆修正〉
伊勢・三河湾で獲れる魚介類を調理して味わいながら学ぶ、なごや環境大学の共育講座「味わって知る わたしたちの海」(伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ主催)の今年度第7回が2013年1月24日(木)、名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。
今回は「日間賀島からの贈り物」がテーマで、一般から約30名が参加。愛知県南知多町の地先にうかぶ島で漁業体験を企画・運営している日間賀島遊考舎代表・宮地明彦さんを講師に迎え、島であがった魚介類を中心にあつかい、同町師崎地区の名物「崎っぽ料理」の一つである味噌焼きや生ノリの吸い物、ヤリイカの刺身を調理して味わいました。
宮地さんからは、日間賀島の漁業についての報告も行われ、盛んなフグ漁やノリ養殖について説明があったほか、新規就業者の減少や好不漁によって大きく変動する魚価の問題など、直面する課題も提示され、参加者は熱心に耳を傾けました。
どんな魚も基本は一緒
この日参加者がつくったのは、魚介類と野菜を使った味噌焼き、生ノリの吸い物、ヤリイカの刺身の3品です。味噌焼きは、南知多町師崎地区で昔から食べられてきた漁師料理の一つ。同地区で活魚料理を提供する飲食店の組合が、活け魚料理を「崎っぽ料理」と名づけて郷土の料理として売り出し、伝承に力を入れています。味噌焼きは、その時期に獲れる魚介類をなんでも使って調理することができる、とても万能な料理です。
宮地さんによると、いまは一年のなかでも獲れる魚がもっとも少ない時期とのことですが、それでも今回の講座では伊勢湾外海の渥美半島沖で漁獲され、島で水揚げされたスズキの一年魚であるセイゴをはじめコショウダイ、マトウダイ、イラなどのほか、殻つきのカキ(三重県産)が用意されました。
冒頭、宮地さんが参加者を前にして、魚のさばき方を実演しました。セイゴを手にして包丁の背でウロコを落とし、魚体に切っ先をいれて内臓を取り出すと、骨にそってスムーズに刃をすべらせていきます。宮地さんは包丁の使い方を一つひとつの工程ごとにわかりやすく解説。慣れた動作からあっという間に三枚におろし、きれいな白身があらわれると参加者からは感嘆の声があがりました。「どんな魚も基本は一緒」という宮地さんはホウボウ、ヤリイカもさばき、カキの殻にナイフをいれて簡単に開けるむき方も披露しました。
どんな魚でもあう味噌焼き
宮地さんが魚のさばき方を実演した後、グループに分かれて調理が始まりました。参加者が交わす声や調理でたてるさまざまな音があちこちから聞こえてきて、会場は一気ににぎやかさを増します。
「魚はそんなにさばかない」という年輩の女性。そう言いながらも笑みを浮かべ、上手な包丁さばきでコショウダイを開いていきます。「なかなか食べる機会がない」という声が多かった殻つきのカキは、受講した人々の関心を集めました。ナイフをうまく殻の割れ目に入れることができず、苦戦している参加者も見られましたが、みなさん新鮮な体験を楽しんでいるようでした。
メインとなる味噌焼きは、鍋にたっぷりのキャベツとネギをつめ、そのうえにさばいた数種の魚の切り身やむいたカキをおいて、さらにニンジンやショウガ、特製の味噌ダレをのせたらフタをして火にかけます。しばらくすると鍋が噴いて、それぞれの厨房でフタが開くと、濃厚な味噌とショウガのなんともいえない香りが立ち込め、ずっとがまんを続けている食欲を猛烈に刺激します。
正午に近づくと料理も次々とできあがり、味噌焼きにヤリイカの刺身、生ノリの吸い物とバラエティに富んだ海のごちそうがならびました。初めて食べる味噌焼きは、味噌ダレといろんな魚介のダシがあいまって、あとをひく豊かな味わいが口のなかに広がります。コショウダイやマトウダイといった、食べる機会のあまりない魚が使われましたが、どの身もホクホクとしていてクセがなく、味噌ダレとの相性も抜群。野菜もたっぷりとることができ、どんな魚にもあう味噌焼きは、調理も簡単にできることからおすすめです。
やわらかくてモチモチとした食感のヤリイカは甘みがあって、セイゴのアラからダシをとった生ノリの吸い物は香りもよく、磯の風味を十分に満喫することができました。この時期にとれる、地元の海で育まれたいろんな魚を味わうことで、伊勢湾およびその周辺の海に対する親近感がさらに深まるのを感じます。
活性化へ新たな取り組みを
食事の後には、日間賀島の漁業について宮地さんから説明がありました。宮地さんは消費者の魚離れや、魚が大量にとれると産地の取引価格が安くなってしまう問題などにふれたうえで、「漁師のなかに絶望感がある。とれる魚も量が減り、種類も少なくなっている。漁に希望がもてなくなり、漁師になる子が減ってきた」と危機感をあらわしました。
この秋にはタイラギが豊漁でしたが、その量は魚市場の仲買人が扱いきれないほどで、
浜値が暴落してしまったことから、「産直でうまくやれないか」と産地の悩みを明かしました。その一方で、伊勢湾産の主要な魚は需要が大きく東京や大阪では高値で売られており、また島で開発された土産用の味付けノリは大きな販売実績をあげているなど、地域のもつ強みも紹介。
鮮度のよい良質な魚を、適正な価格でどう提供していくかがこれからの課題であるとし、島の活性化についても、漁業と観光業が資源をうまく活用して、多くの客に来てもらうための新たな取り組みが必要と話しました。参加者からは、産直の一つのあり方として、消費者の会員をつのりインターネットを活用した販売を行っては、といった提案の声などがあがり、さまざまな意見が活発に交わされました。(新美貴資)