里山川海を歩くライターの活動記録

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世界遺産の登録に向け、日韓の海女が参集 三重県志摩市で海女サミット開催

〈『水産週報』2010年10月15日号寄稿、2020年5月27日加筆修正〉

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8県9地域から46人の海女が参加して開かれた

全国でもっとも海女漁が盛んな三重県の鳥羽・志摩地方。地元の自治体では海女文化の情報発信に力を入れており、浜では「海女小屋体験」が人気を集め、観光客を呼び込む新たな地域資源として脚光を浴びている。その志摩市内で2010年9月25日、海女文化の伝統を守り、海の大切さを伝えようと「日本列島“海女さん”大集合~海女サミット~2010志摩大会」(主催:海女サミット実行委員会)が開かれた。

昨年に続いて2回目となるこの催し。会場となった志摩文化会館には、海女や地元住民ら約220人が参加し、鳥羽、志摩市のほか千葉から長崎までの8県9地域、韓国済州島も含め、約46人の海女が参集。それぞれの浜で行われている伝統的な漁や文化を紹介し、交流を深めた。担い手が減り、就業者の高齢化が進む海女漁。資源の減少も深刻ななか、その伝統文化を地域資源として活性化にいかす取り組みが進んでいる。鳥羽・志摩地方の重要な産業である海女をテーマにしたサミットの模様を紹介する。

サミットの冒頭、主催者を代表して海の博物館(鳥羽市)の館長である石原義剛実行委員長が済州島、日本各地から参加した海女を紹介し、「一番大事なのは交流。みんなで海女さんを応援してください」と挨拶した。

続いて、大口秀和志摩市長が「海女漁の独特な文化は伊勢志摩を代表する地域資源。海女文化の情報発信について考え、地域の漁業や観光の振興につなげたい」。木田久主一鳥羽市長が「乱獲でとりすぎると資源は枯れてしまうが、海女漁は漁が続くよう考え、永続して行われてきたすばらしい産業」と、サミットへの期待の言葉を述べた。

また、海の博物館と韓国済州島の海女博物館が連携して、東アジアの海女文化を世界遺産無形文化財に登録しようと取り組んでおり、両市長ともその実現に向けて協力することを表明した。

▼子供たちが海女に質問

続く記念講演では、海とくらし研究所を主宰する関いずみ東海大海洋学部准教授が「海の文化と里海」と題して講演した。

浜の女性の起業活動を支援している関准教授は、漁村地域について「産業と暮らしが近くにある」ことを特徴にあげ、海と人から生まれる文化や風景が数多く残っていると説明。産業、生活・文化、環境のそれぞれが関わり成り立っていることから、漁村を維持するキーワードとして「人と環境の互酬性」をあげた。

さらに「人間は利用するから守る」という点も強調。良い漁場には操業期間や漁具規制など、資源を保護する様々な決め事があるとして、利用する人間が漁場を守っていることの大切さを訴えた。

また、各地で行われている漁業体験や未利用魚を使った商品開発、漁村の観光などを例にあげ、「新たな産業が起こって、海の活用が多様化している」状況を説明。利用客が増えることで、今後はいろんな問題がでてくる可能性も指摘。そのなかで漁業を核としながら、「いかにして漁村の応援団をつくるか」を課題にあげた。

続いて、石原委員長の司会進行のもと、地元の市立和具中学校の女子生徒13人が会場の海女に順番に質問。「なぜ海女になろうと思ったのか」「年によって収穫量は違うのか」「つらい時や辞めたいと思ったことは」など、たくさんの質問が寄せられた。

海女からは、就業した動機について「海が好きで元々はサーフィンをしていた」(千葉県)、「小さい頃から潜っていて海女になった」(三重県)といった答えが。収穫量については、「3年前から温暖化で磯焼けが続いて前より少ない。今は昔の半分ぐらい」(佐賀県)といった話も。「つらいと思ったことはない。海女が好きで休みの日も漁に行きたい」(三重県)、「海の中に長くいすぎてあがったら酸欠状態。船にあがったら倒れてしまった」(同)など、いろんな話がでた。

和やかな雰囲気のなか、出席した海女が一つひとつの質問に答えていき、生徒たちは各地で異なる多様な漁、浜での生活や伝統文化について学んだ。

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参加した海女が水産業の再生へ大会アピールを宣言した

▼日韓が力をあわせ海女文化の保存を

その後の報告会では、まず済州道立海女博物館のチャ・ヘギョン研究員が「済州島の海女」について発表した。報告によると済州島には約5000人の海女がおり、日本と同じくアワビ、サザエ、トコブシ、ウニなどを漁獲しているという。済州島でも海女の高齢化は深刻で、40代未満はわずか200人ほど。中心を占めるのは50代で、高齢化の原因として、女性の高学歴化と資源の減少をあげた。

海女への支援策として、島内の病院での診察が無料であること、稚貝の放流のほか、人工海岸や海中林の造成などが行われていることも説明。漁では操業期間を設け、10センチ以下のアワビは獲らない資源保護の取り組みも紹介した。海女文化についてチャ・ヘギョン研究員は「島の伝統として重要性が認められている」とし、「日韓の海女が力をあわせて、文化が伝承、保存されることを願う」と述べた。

続いて、三重県水産研究所の阿部文彦研究員が「三重県におけるアワビ資源の動向」について報告。同県のアワビ類の漁獲動向や同研究所が取り組んでいる稚貝の放流効果の調査などを説明した。報告によると、同県のアワビ類の漁獲は過去に比べ減少。取引単価も低迷し、海女漁の経営も影響を受けているという。

阿部研究員は、海女漁の存続に向けた社会的な課題として、後継者の育成と単価の変動への対応、科学的な課題として資源量の安定・増大をあげた。また、経済的に自立した海女漁の構築と海女文化の魅力を継承し、ブランド化や単価の高い時期に操業することで、景気や輸入によって変動する単価への対応を図るとともに、効果的な種苗放流や保護区の設定、漁獲サイズの引き上げによって、再生産力を向上させることが必要だと述べた。

最後の大会アピールでは、海女全員がステージにあがり、今後も交流を重ねて海女文化の伝統を守り、海の大切さを伝えていくことを誓い、世界遺産の登録に向けて連帯を深めることを宣言。サミットの翌日は、場所を鳥羽市内へ移し、参加者によるアワビ稚貝の放流や海女小屋での交流が行われた。(新美貴資)