里山川海を歩くライターの活動記録

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森・川・海のつながりを守る 岐阜市内で「清流の国ぎふづくり県民大会」

〈『水産週報』2011年9月1日号寄稿、2020年5月28日加筆修正〉

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「清流の国ぎふづくり宣言」を朗読する小、中学生

昨年6月に第30回全国豊かな海づくり大会が開かれた岐阜県。県内では、この大会を機に河川を保全する気運が高まり、各地で取り組みが進んでいる。

環境の保全に取り組む団体や他の行政機関などとともに「清流の国ぎふづくり」を目指す県では、水に親しむ機会が増える7月を「清流月間」とし、期間中は河川の清掃活動をはじめ、間伐体験・源流をめぐる交流ツアー、里山ウォッチングなど、130を超える県民参加の関連行事が開かれた。

そのメインイベントとして、海の日の7月18日、岐阜市内で「清流の国ぎふづくり県民大会」が開かれ、県民約600人が参加した。豊かな海をつくるうえで、河川の環境を保全することはとても重要なことであり、森・川・海の連携をテーマにして開かれた大会の内容を紹介したい。

▼3つの柱で展開する清流の国づくり

大会では冒頭、古田肇知事が挨拶。「岐阜は県土の広さが全国で7番目。山々から海抜ゼロメートルの輪中地帯まで、様々な歴史と文化に恵まれている。岐阜の魅力は、清流の国であるということ。『守る』『活かす』『伝える』の三つの柱で清流づくりを展開していきたい」と述べた。

続いて、来年秋に開かれる、ぎふ清流国体、ぎふ清流大会のマスコットキャラクターである「ミナモ」を活用してデザインされた、「清流ミナモ」が発表された。ステージには、着ぐるみ姿のキャラクターが登場し、参加者の注目を集めた。

今年から創設された、ぎふ清流環境賞の表彰では、県内で清流の保全活動などに取り組む学校、市民グループなど5つの団体が受賞。漁業関係では、河川の上流で植樹活動に力を入れている郡上漁協が奨励賞に選ばれた。

パネルディスカッションでは、「森・川・海の連携を活かした清流の国ぎふづくり」をテーマに、涌井雅之東京都市大教授がコーディネーターを務め、稲本正オークヴィレッジ代表、草野満代フリーアナウンサー、野村典博NPO法人森と水辺の技術研究会理事長、森誠一岐阜経済大教授、秦康之県環境生活部次長がパネリストとして登壇し、それぞれの立場から意見を発表した。

冒頭、秦氏が県によって6月に策定された「生物多様性ぎふ戦略」について説明。戦略が掲げる3つの施策「森・川・海のつながりを守る」「いのちを活かし、暮らしにつなげる」「ともに考え続ける」の中身について報告した。同戦略が、清流の国づくりに対応している点もふまえ、森や川、里づくりで今後進める具体的な取り組みも紹介した。

森・川・海のつながりについては、上流と下流の人々の交流が必要であると主張。流域が一体となった保全活動、またそれを支える人づくりが重要で、団体や研究者との連携も含め、「県民総参加による清流の国づくりを呼びかけたい」と述べた。

▼岐阜の取り組みが森・川・海をつなぐモデルに

県内の高山市を拠点に木製の家具や玩具の製造・販売、木造建築の設計・施工などを行う工芸村のオークヴィレッジ。代表を務める稲本氏は、「森をつくることで川、海へとつながる」と語り、源流から海まで、流域が一つにつながっていることを強調。清流が注ぐ日本海で漁を行う富山県の漁業者が、飛騨の源流で森づくりに取り組んでいる事例なども紹介した。

清流づくりには、人の手による山の管理が大切だと訴え、環境の保全と雇用の拡大にもつなげている自らの取り組みを説明。県が進める清流の国づくりについて、「岐阜での取り組みが、森と川、海までをつなげる一つモデルになるのでは」と、これからの展開に期待を表した。

フリーアナウンサーの草野氏は、県内の恵那郡福岡町(現中津川市)の出身。木曽川水系の付知川を遊び場として育った当時について、「自然のなかにいるのが当たり前で、その重要性や価値について考えたことはなかった」と振り返った。メディアでの仕事を通して、環境への一般の関心はさらに高まっていると述べ、「最大限の知恵を使って、自然と触れ合うことができる取り組み」を行うべきであると強調した。

▼環境を守り次の世代へ残す

流域全体をつなぐ技術の発展や普及に取り組む森と水辺の技術研究会の野村氏は、世代も含め、いろんなつながりが分断されていると指摘。「つながりを取り戻すことが環境問題の解決に効果がある」と述べ、同研究会が行っている環境教育への支援などを紹介した。また、清流の国づくりの取り組みが、5年前に県内で開かれた全国植樹祭、さらに昨年開かれた豊かな海づくり大会によって大きく動き出していることを評価。県内を源流とする河川が太平洋、日本海へと注いでいることから、漁業者との連携した取り組みが必要と訴えた。

岐阜経済大の森氏は、生物多様性の観点から、日本列島の北と南が重なり、豊かな淡水の環境を持つ岐阜の特徴を紹介。その一方で、県内の湖で外来種コクチバスが見つかったことについて、生息域が広がればアユが捕食されて漁業が被害を受け、重要な観光資源である鵜飼にも影響が及ぶと指摘。河川文化の衰微によって郷土特性が欠如し、まちづくりの活力が失われる可能性もあるとして、「郷土力の育成」を課題にあげた。

それぞれのパネリストの発言を受けて、コーディネーターの涌井氏は、「在所一番」という言葉をあげ、「我々は故郷をぬきにしては語れない。郷土特性は、祭りの文化、環境の力があわさって生まれる。自分たちが子供の頃に見たことを、次の世代へ伝えることが大事」などと語った。

人とのつながりをキーワードとし、環境を守り次の世代へ残していくことを共通の認識として掲げ、パネルディスカッションは終了した。

最後に、清流の国ぎふづくり宣言を流域学習に取り組んだ県内の小、中学生が朗読。清流を「守る」「活かす」「伝える」暮らしの営みを一体とし、一人ひとりが実現していくとする宣言文を読み上げて大会は閉会した。

会場の入り口では、清流の国パネル展も開かれ、県内37の企業や団体が出展。環境保全や清流づくりに向けた取り組みなどを紹介した。

昨年の豊かな海づくり大会から、さらに清流づくりに力を入れている岐阜県。森や河川の保全は、その地域だけではなく、下流域、さらには海の環境を豊かにすることにもつながる。伊勢・三河湾でも漁業者による森に木を植える活動が行われている。流域が一体となり、森・川・海の連携がさらに進むことを期待したい。県では来年7月も「清流月間」のメインイベントとして、県民大会の開催を予定している。(新美貴資)