里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(93)」〉できることに努める 止まらない新型コロナウイルス

〈『日本養殖新聞』2020年3月15日号掲載、2020年8月4日加筆修正〉

この原稿を書いている時点(2020年3月9日)で、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。安倍首相が小中高校などに臨時休校を要請した3日後の3月1日、名古屋駅とその周辺を歩いた。

普段であれば日曜夕方の駅構内は、多くの人びとで混雑を極めているが、このときは、他人とぶつかることを気にせず、ゆうゆうと歩くことができるくらい人の数は少なかった。

駅の周辺に立地する、ある百貨店に入った。飲食店が並ぶ階は閑散とし、客の一人もいない店がいくつもあった。営業しているウナギ店に入り、食事を取る。入店時に2組の客がいたものの、広い店のなかはがらんと静まりかえっていた。

従業員に聞くと、客足は先月10日くらいから落ち、臨時休校の要請以降、一気に減ったという。訪日外国人観光客も激減し「駅には人がいるが、(建物に)入って上がって来ない」。

名古屋市内主要4百貨店の2月の売上高速報によると、4社の合計は前年同月比10・3%減となった。「消費税率が引き上げられた昨年10月以降、5ケ月連続のマイナス。消費税増税や暖冬で苦戦していたところに、新型コロナウイルスの感染拡大による影響が加わった格好」(2020年3月3日、中日新聞)。

4百貨店は、3月2日からの営業時間の短縮や3月中の臨時休業日を決める。

東海地方のいくつかのウナギ店に現状を聞いてみたが、都市と地方、また都市部にあっても中心地と郊外とでは、今回の騒動による影響には大きな開きがあるようだ。多くの人が集まるところにある店ほど、客数の減少は深刻で、なかでも都心や観光地で営む店は厳しい経営を強いられている。

大勢の行楽客でにぎわう、岐阜県のある名所に店を構える経営者は、観光客の減少により地域全体がかなりの影響を受けており、ダメージは大きいと言う。

また、同県の繁華街で店を営む経営者によると、今月に入り昼食で訪れる客が減り、宴会や仕出しのキャンセルも発生。出前や持ち帰り用の販売でしのいでいるという。

その一方で、愛知県名古屋市内の住宅街で営業する店に聞くと、今のところ客足に大きな影響は出ていないと答えた。

このようななか、今後の状況によっては「営業時間の短縮、席数の縮小。パートさん、メニューの一部削減も視野に入れなければならない」「営業の形態を変えたり、持ち帰りのみにしたりを考えたい」といった声も聞かれた。

新たな感染症が、経済にどれだけマイナスの影響を及ぼすのか。「自粛(活動停止)が長期化すればリーマンショック並みの消費落ち込みとなる可能性」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「今月のグラフ」〈2020年3月6日〉)を指摘する報告もある。

今回の騒動から、現代社会における想像力の欠如が改めて浮き彫りとなり、一人ひとりの良識が問われていると感じた。

「いつまで我慢すればよいのか」「この空気が1ケ月続いたら怖い」。悩みを深めるなかにあって「悲観しすぎない」や「当たり前のことをやる」というウナギ店の声は、その通りである。

この感染症の対策が、長期戦になることを想定しながらも、必要以上に恐れない。慌てず騒がない。新たな疾病に対し、正しく理解しようとし、他者への思いやりを持ち、自分ができることに努めるのが大切であると考える。

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人通りの減った日曜夕方の名古屋駅構内(2020年3月1日)