里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(94)」〉希望を灯し未来につなぐ 自分を守ることは大切な人を守ること

〈『日本養殖新聞』2020年4月15日号寄稿〉

新型コロナウイルス感染症の猛威が止まらない。世界がこのウイルスの脅威を見誤った。この原稿を書いている2020年4月7日現在、東京都では感染者が日を追うごとに増加し、いつ感染爆発が起こるかわからない緊迫した状況が続いている。

まず守るべきは、命や安全である。そして、生活や雇用、休業を保障することである。なかでも身心に疾患や障がいを抱えている方、ひとり親家庭、小規模事業者や非正規労働者など社会的、経済的に弱い立場に置かれている人びとに対し、手当てを急いでほしい。

名古屋市内は4月に入り、各所で桜が満開となった。花見の名所である鶴舞(つるま)公園を車で通った人によると、多くの見物客が訪れていたという。

この話を聞いて、3月の3連休にテレビのニュース番組が流していた、東京・渋谷の光景と重なった。自粛のムードがゆるみ、多くの人が感染リスクの高い「密集」や「密接」した場所へ外出してしまった。

自分のとった行動で、誰かの命が奪われてしまうかもしれない。自分の家族、友人、仲間がもし感染して重篤になってしまったら。そうならないように、想像力を働かせてほしい。自分を守ることは、大切な人たちを守ることでもあるのだ。

いつの時代も、非常時にはいろいろな噂が飛び交う。現代のネット社会では、根拠を欠いた出所の不確かな情報が、フェイクニュースとなって安易に拡散されてしまう。

真偽がわからない情報に惑わされ、パニックになってはいけない。誰が書いたのか。根拠はなにか。違う情報と比べてみるなど、正しいかどうか見極める力を持つことが大切だ。新型コロナについては、日本WHO協会や首相官邸のホームページなどが情報を出している。このウイルスの特性を理解し、正しく恐れたい。

長引く自粛ムードに名古屋の町中も重い空気が漂っている。先の見通しが立たず、なにが正解なのかわからないなか、私のまわりの友人や知人も仕事や家庭において不安を抱え、迷いながら日々を過ごしている。

このパンデミックがいつまで続くのかは誰にもわからない。しかし、いつか必ず終わる。半年や一年で終息するのか。私は、かなりの長期に及ぶことも覚悟している。

文明がどれだけ発展しても、人間の本質はなにも変わらない。未知なる感染症への恐れ、そして、それがもたらす騒動の危うさを経験し、改めてよくわかった。

そして、守らなければならない社会的共通資本を商品化し、マネーゲームをグローバルに拡大させてきたこの国の政治、経済、社会の仕組みのもろさがあらわになった。本当の豊かさ、幸せとはなにかを、足下を見つめなおして考えたい。

文明を手にしてから、人類に厄災をもたらしてきた感染症は、これからもなくなることはないだろう。「根絶は根本的な解決策とはなりえない。病原体との共生が必要だ」(『感染症と文明』山本太郎著、岩波新書)。

たまたま目にしたテレビのニュース番組で、著名な経営コンサルタントが語っていた。「先を見て決断しなければならない」と。この困難を乗り越えた先に「創造」と「復興」があり、みんながもっと幸せになれる働き方や暮らし方を可能にする、新たな世界が生まれるかもしれない。そのためにも、希望を灯し、今日を生き延びて、未来につなげていかなければならない。

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人通りの減った名古屋駅桜通口前の交差点。日曜夕方に撮影

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