里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

ウナギの魅力について講演 人とウナギの関係を大切に 本紙連載中のライター新美貴資氏

〈『日本養殖新聞』2020年8月10日号掲載〉

本紙で「めぐる。」を連載中のフリーライター・新美貴資氏は2020年7月18日、愛知県名古屋市内の市環境学習センターで「ウナギの魅力~取材から見た生態、食文化、職人、人との歴史~」と題して講演した。

主催したのは、藤前干潟ふれあい事業実行委員会。新型コロナ対策を十分に講じたなか、一般から応募のあった約20人が参加。新美氏は取材で撮影した写真や動画を見せながら、①ライターになったきっかけと活動②ウナギとの出会い。その魅力とは?③みなさんにお伝えしたいこと―などについて話題を提供した。

 

▼ライターになったきっかけと活動

 

子どもの頃から海や川、水の中の生き物が好きだった。将来何がしたいのかわからなかったが、就活で採用された水産業界紙という世界に飛び込んだことが、今の活動につながっている。

ライターの仕事の何が面白いか。自分の知らない世界をのぞき、いろんな人と会って話が聞けることである。文章を書くのは苦しいが、書いたものや撮ったものが記事になるのはうれしいし、達成感がある。

水産業は、この国の政治、経済、社会、さらには世界とつながっている。そして、 魚の供給とそれを支える仕事はじつにたくさんある。多くの魚の職人が関わり、役割を担うことで、私たちは新鮮なおいしい魚を食べることができる。

これからも生産者を応援し、山川里海の営みや伝統文化を伝えていきたい。

 

▼ウナギとの出会い その魅力とは?

 

10年くらい前から日本養殖新聞で記事を書くようになる。それからウナギの世界にはまり、東海地方のウナギ料理を食べ歩くようになった。

私が思うウナギの魅力には、①海と川を行き来する謎の多い生態②日本を代表する食文化③技を磨く職人の世界④日本人と関わりの深い生き物―の4つがある。

ウナギの生態については多くの神秘と謎がある。あの強靭な生命力はどこからくるのか。今後の研究が進み、解き明かされることを期待したいが、ずっと謎のままで想像をめぐらせていたいという思いもある。

関東と関西のウナギの調理法の境界は、浜松から豊橋のあたりで、両者が混在している。東海地方は関西風の地焼きが中心で、醸造が盛ん。タレにはたまり醤油を使う独自の「うま口文化」が存在する。

単一の魚でここまで専門店があるのはウナギだけ。東海地方は全国でもウナギの生産と消費が盛んで、名古屋、豊橋、関、多治見、浜松、津などウナギを名物とするところが多い。

食べ歩いてきたなかで東海地方のウナギ店には、①老舗のスタンダード系②大きなサイズを使ったニューウェーブ系③豪快に焼き上げるワイルド系④上品で後味の良いさっぱり系―があると思う。どれも職人の技によって作られる、すばらしい味わいである。

ウナギ店をとりまく環境は厳しい。醤油を作る蔵が減り、品質の安定した炭を入手するのも難しくなっている。人材も不足。安定しないシラスウナギの漁獲が経営を圧迫しており、完全な人工養殖による量産化を期待する声は大きい。

愛知県に「鰻」の付く地名は「鰻谷」「鰻田」など12ケ所ある。そうしたところになぜ「鰻」の地名が付いたのか調べてみたい。

岐阜県郡上市の粥川には、昔からウナギを神の使いとして崇め、食べないで守る伝承があり、虚空蔵菩薩信仰とも深い関わりがある。

また、三重県桑名市多度町にある徳蓮寺の本堂には、江戸時代からのウナギやナマズの絵馬が奉納されている。どういう起源をもつのかとても興味深い。

ウナギとその生産、流通、調理などに携わる職人への感謝の気持ちを持つ。そして、自分の中にあるオンリーワンな店や地元の店を大切にしてほしい。人間とウナギは食、文化、信仰などを通して長い間つながってきた。そうした関係をこれからも大切にしていくべきである。

 

▼みなさんに伝えたいこと

 

近年、海や魚の異変が全国で起こっている。伊勢・三河湾では、アサリやコウナゴの深刻な不漁が続いている。真珠養殖に使われるアコヤガイの稚貝の大量斃死も心配だ。

ウナギ資源も激減しているが、そこには①乱獲②河川・河口環境の悪化③海洋環境の変化―などの原因がある。

ウナギの減少は、生息域の環境、食物連鎖でつながる生態系、人間の経済活動の問題でもある。資源を守り持続的な利用を図ることが大切で、そのために自分たちになにができるのか。私たちの暮らしは、海や川とつながっていることを想像し、考えてみてほしい。

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