里山川海を歩くライターの活動記録

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【新美貴資の「めぐる。(99)」】海から人生、川を旅する ウナギに関する3冊を紹介

〈『日本養殖新聞』2020年9月15日号寄稿〉 

夏の疲れがどっと現れるこの時期、休息を取る間に本のページをめくるのもいい。外出などしなくても、読書が思考と想像の旅にいざなってくれる。今回は、私がこれまでに読んだウナギに関する本の中から3冊を紹介したい。

『海洋大異変 日本の魚食文化に迫る危機』(山本智之著、朝日新聞出版、2015年)。10数年にわたり水産・海洋科学をテーマに取材してきた朝日新聞の科学記者による著作。温暖化、酸性化、外来種化、汚染などをキーワードに、各地で起こっている海の異変を取り上げ、日本の魚食文化に迫る危機を報じている。

第2章の「ウナギが食べられなくなる?」では、絶滅危惧種への指定、河川の人工護岸化による環境悪化、天然の親ウナギを守る取り組み、稚魚の漁獲量に大きな影響を及ぼすエルニーニョ現象、川や湖に入り込む外来ウナギなどについて取材している。

著者は、長年にわたるシラスウナギの乱獲と河川環境の悪化で二ホンウナギは激減したと説く。そして、世界のウナギに手を伸ばす日本の商業利用と安さばかりを求める消費の現状について、持続可能性の観点からみて危ういと警鐘を鳴らす。目をそむけてはいけない現実を教えてくれる一冊だ。

『生涯うなぎ職人 二百年続く老舗「野田岩」の心と技』(金本兼次郎著、商業界、2011年)。ウナギ屋の5代目が、職人としての生き方について語っている。

「職人として技術を磨き、若い世代に伝えていくこと。商人として正しく商い、店を損得ではなく運営すること。経営者として従業員を育て、店の将来を考えること。これらはすべて、回り回ってお客さまのためになる」。著者は発行時、満83歳。経験から導き出される一つひとつの言葉には、温かさと重みがある。

とくに熱がこもっていると感じたのは、人材育成のところ。「店を出すために人を育てるのではなく、人が育ったから店を出す。人材育成が先で、出店は後。店は人がすべて」。引退を考え始めてから後継者を探し育てるのでは遅く、人材戦略は少なくとも10年単位で考えるべきだという。伝統を守り革新する生き方には、多くの学びがある。

『ウナギのいる川いない川』(内山りゅう著・揖善継監修、ポプラ社、2016年)。著者は和歌山県在住のネイチャー・フォトグラファー。ウナギの生態や最新の研究、生息している川などについて、豊富な写真に図解を加え、わかりやすく解説している。

ウナギのいる川には、石を積んだ岸や自然状態の岸が残っている。隠れる場所があれば、ウナギの餌となる生き物も棲みやすい。

「ウナギを守るということは、小魚やさまざまな水にくらす生きものたちを守るということ」。環境をよくしていく努力を訴える。

近くを流れる川にも、ウナギはいるだろうか。躍動するウナギの写真を見ていると想像がふくらむ。大人も子どもも楽しく読みながら学ぶことができる。

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各地で見られる三面がコンクリートで固められた川。環境の悪化によってウナギは激減した

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