〈『日本養殖新聞』2021年8月25日号寄稿〉
7月、岐阜市の長良川を歩いた。どうしても見ておきたいところがあった。大繩場大橋から鏡島大橋にかけての左岸が、川とは思えない異様な光景に変わってしまっていたのだ。
その河原は、1キロくらいにわたりコンクリートとアスファルトで固められ、土や植物が取り除かれてしまっていた。どうしてこのようなことになってしまったのだろう。
舗装された河原の上は、生命の感じられない無機な世界が広がり、日光からの直射を受けてかなりの熱を帯びていた。足元からは、厚い蓋をかぶせられ、窒息して苦しみもだえる生き物たちの叫びが聞こえてくるようで、しばらくは何も思うことができなかった。
不思議だったのは、この土のない河原に干からびているミミズが大量に見られたことである。このようなミミズの死骸を道路などで見かけることはあるが、なぜそのようなことになるのか、今まで考えたことはなかった。
ミミズは、魚を釣る餌として愛用されている。なかでもウナギにおいてはよく釣れる餌として、釣り人に好まれている。
ウナギとミミズの関係についていろいろ調べていたら神戸大学のホームページに『降雨に伴って川に入るミミズが、ウナギの大きな餌資源になる!』(2020年11月10日発表)という研究ニュースが載っていた。
メリーランド大学の板倉光・海外学振特別研究員、水産・研究教育機構、神戸大学、東京大学からなる研究チームは、雨の時に土壌から地表に出て川へ入るミミズが、大型河川の下流域に生息する二ホンウナギの重要な餌資源になっていることを明らかにした。論文はカナダの専門誌に掲載された。
調査は利根川の下流で3年間行われ、採集したウナギがミミズを食べている割合を調べると、全長40センチ以下のウナギで68~93%を占めた。さらにこの水域全体では、ウナギの餌のおよそ50%がミミズなどの陸上の生き物であると推定された。
ウナギによるミミズの捕食は春から秋までに見られ、降雨後2日間以内に集中していたという。
研究ニュースでも指摘しているが、この調査結果から言えることは、①川岸がコンクリートによって覆われてしまうと、川へのミミズの供給が阻まれてしまう②河川環境を考えるうえでは、陸と川の生態系のつながりを守ることが重要―ということである。
「護岸工事された川岸が多い川ほど、ウナギの減り方が激しい」との指摘もある。(東京大学海洋アライアンスのホームページより。『海洋学で大切なのは学際的な視点です』大気海洋研究所・木村伸吾教授)。
ウナギにとって河原の環境はとても重要であり、このことは河川の生態系全体にも大きく関わってくる。
ミミズがなぜ地上に表れるのかについては謎の部分もあるが、降雨により土の中の二酸化炭素が増え、苦しくなって出てくるというのが代表的な説のようである。