〈『日本養殖新聞』2025年6月15日号〉
三重県鳥羽市に、奈良県から中学2年生がやってきた。毎年5月に実施されている、奈良教育大学附属中学校の臨海実習である。
生徒たちが宿泊するホテルでは、夜に講話が開かれる。地域の持続に関わって生きている大人の話を聞き、自らの生き方について考える学びの時間である。この催しに、今年も話者の一人として招かれた。
講話では、「自分の興味をふくらませて探求する」と題し、これまでに撮影した水産業の様々な場面の写真を生徒たちに見てもらった。取材や執筆のやり方の他、どのようにして関心のある対象を見つけ、深めていくかについても話した。
水産業には、「獲る・育てる」「集める・選ぶ・分ける」「作る・売る」といった3つの大きな働きがある。 海や川、産地や消費地の市場、加工場やスーパー、料理店などを舞台に、いくつもの仕事があって「1つの業」は成り立っている。1つの職は、他の多くの職と、まるで食物連鎖のように無数につながっている。
ウナギ業界でいえば、シラスウナギの採捕、養鰻、産地や消費地の問屋、輸入商社、蒲焼店や加工場だけが仕事の場所ではない。漁網を製造する、ウナギの餌を作る、漁協に務め養鰻業者を支える、炭を輸入する、包丁を作る……。ウナギに関わる仕事を見ていくと、それらの職はどんどん細分化されていく。地域や国を超えてつながり、他の業種とも広く複雑に交わっている実相が見えてくる。
それぞれの与えられた場所で、たくさんの職人が働いている。そうした人々を支える関連産業があり、裾野は広い。職人は、多くの職人によって支えられている。私たちの体の中は、食べ物を通して他者や世界とつながっているのである。
講話では、私が内面に抱えてきた悩みや、病気で苦しんだ過去の経験も明かす。
私は子供の頃から組織や集団になじめなかった。だから学校や会社、飲み会が嫌いだった。そういう内向的な自分の気質を、以前はまったく理解していなかった。だから無理を重ねて30代の時に心身を病んでしまい、社会から長く孤立してしまうことになる。
でも、つらかった過去の人生がまったく無駄だったとは思わない。どんな状況にあっても自分を認め、許し、受け入れる視点を持つことが大切で、わかったところからいつでもやり直せばよいのだと今なら考える。
生徒たちにはこう話す。夢なんかなくてもいい。与えられたことをやってみよう。そのなかから夢中になれることが見つかるかもしれない。そうしたらとことんやってみるのだ、と。
そうした過程で、自分の好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、苦手なことがわかってくる。まずは、自分の性質を理解する。そうすれば、その特長にあった、能力を発揮できる場所がきっと見えてくるはずだ。
世の中には、いろいろな仕事があり、生き方がある。みんながどんな人生を歩んでいくのか。私はこれからどう生きていくのだろう。生徒たちと共にしたひとときは、私にとっても貴重な学びの時間であった。
