〈『日本養殖新聞』2026年6月15日号寄稿〉
完全養殖のウナギがこのほど、世界で初めて一般向けに試験販売された。このウナギは山田水産が育てたもので、同社は水産庁の委託事業で完全養殖の量産化に取り組んできた。
ニホンウナギの完全養殖の研究が始まったのは1960年代。以来、人工ふ化や仔魚を育てる研究とあわせ、太平洋で産卵場を探す調査も進む。そして仔魚の生態が徐々に解明され、謎に包まれていたウナギの実相が明らかになってきた。
長年にわたる多くの研究者のたゆみない努力の積み重ねが、今日の成果をもたらした。人工ふ化によって育てた親魚から卵を採り、再び成魚になるまでを人間が育てる。このサイクルを完結させた完全養殖の実業化は、多くのウナギ関係者が待ち望む悲願であろう。
将来、安定した質の種苗を安価で量産できるようになれば、絶滅危惧種である資源の保護と流通の透明化に貢献できるし、養鰻業者は、稚魚である天然のシラスウナギの不漁時に、養殖池に入れる不足分を人工種苗によって補うことができるようになるはずだ。そうなれば、ウナギの不安定な供給は改善され、その恩恵を消費者も受けることができるようになるだろう。
ウナギ業界は長い間、シラスウナギ漁の不振とそれにともなう相場の高騰によって、先の読めない経営を強いられてきた。ウナギを扱う多くの事業者は、こうした不安に頭を悩ませてきたに違いない。完全養殖の量産化は、ウナギ産業の持続性が確保され、長期の展望が描けるようになることを意味する。
ニホンウナギには、低位な資源量と稚魚の不漁という不確実なリスクがある。この状況は、早期には好転しないだろう。完全養殖によって育成された種苗や成魚が、従来の天然ものや養殖ものとそん色ない品質と価格で提供できるようになった時、生産されるウナギは工業製品のような扱いになるのかもしれない。そして、これまでの経済活動の範ちゅうを超える大きな変化を国内外のウナギ業界にもたらす可能性がある。
完全養殖には、国の研究機関による主導のもと、いくつかの民間企業が技術の確立に取り組んでいる。生産にかかるコストが改善され、安価なウナギの量産が可能となれば、それを受けて多くの企業が外食などの分野に参入してくるに違いない。その結果、ウナギ産業は流動化し、市場をめぐる競争は今よりも激しくなることが予想される。
これから先を展望するうえで課題となるのは、確立された完全養殖の技術をどう移転し、社会へ導入を図っていくかである。また、生産された種苗や成魚が、必要とする零細な養鰻業者や問屋、ウナギ専門店などの小規模な事業者に適正にいきわたるような、公正な取引のルールと仕組みづくりも必要になってくるだろう。そして改めて思ったのが、天然の資源を守る取り組みの重要さである。
期待がふくらむのと同時に新たな課題も見えてくる完全養殖。未来を見据え、ウナギ資源の持続的な利用について考えていきたい。



