里山川海を歩くライターの活動記録

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【新美貴資の「めぐる。(127)」】愛知に多い鰻の地名 命名の謎を調べたい

〈『日本養殖新聞』2023年1月25日号寄稿〉

これまでにこの連載で「鰻」のつく地名について何度か書いてきた。今年は、ウナギのいろいろな世界のなかでも、特に地名について力を入れて調べてみたいと思っている。

愛知県に残っている、またはかつて存在した鰻の地名について、その後も調べてきた。その数はさらに増えて、現在は12カ所にのぼる(例えば、阿久比町の大鱣谷、東鱣谷、西鱣谷など、同じ地区に隣接して複数あるものは一つに数えた)。この地名の数は、今後も増える可能性がある。

以下、その地名をここにあげておく。鰻池(岡崎市)、鱣池(清須市)、鰻池(東浦町)、鰻沢(田原市)、鰻田(稲沢市)、鱣田(名古屋市)、鱣谷(阿久比町)、鱣谷(小牧市)、鰻樽沢(うなぎだるさわ、豊根村)、鰻ノ沢(設楽町)、鱣廻間(うなぎばさま、名古屋市)、ウナギ渕(豊田市)。

これらの地名は、『愛知県地名集覧』(日本地名学研究所)、ネット、友人からの情報提供などにより集めた。

こうして見ると、地名とは、その土地の状態を表したものが多いということがよくわかる。そして、鰻の地名の場合、そのすべてが水と関わる地理と結びついており興味深い。

鏡味完二が書いた『日本の地名』(講談社)によると、「大多数の地名は、方言または共通語によって表現された、土地の環境的な性質にしたがって、命名されたものである」という。

さらに、日本の地名については、日本民族が古来用いてきた日本語の方言で命名されたものであり、「くち伝えで呼んで来たのを、しだいに漢字で表記するようになり、大部分の地名は、ごく最近といってよいほど、後世の表記によるもの」で、日本の地名には、漢字をもってあて字したものが多いと書かれてある。

鰻の地名については、似たような発音の言葉から鰻の字があてられた可能性がある。だから、その起源をウナギと安易にむすびつけて推測するのは早計であり、慎重に調べていかなければならない。

同書を読んで、鰻の語源や方言、さらにその用言の語幹となっている部分の意味、そして同類と思われる発音の言葉についても調べなければ、地名の起源を考えることはできないのだとわかった。

愛知県を含む東海三県を見てみると、岐阜県では、鰻の地名はまだ見つけることができていない。三重県では、長島町に鰻江川という川がかつてあった。

全国で見ると、現在わかっている限りでは、鹿児島、香川、徳島、鳥取、兵庫、大阪、三重、東京、宮城の都府県に鰻の地名がある。

まずは東海地方にある鰻の地名をすべて調べ、現地を歩き見て、地図で地形などを確認したい。そして、そこになんらかの共通性を見いだして、命名された意味を考えたい。歴史や民俗、方言などとの関連も考慮に入れなければならない。後世にあて字としてつけられたのだとしても、鰻と表記された理由がなにかあるはずである。謎の多い地名は、想像をかきたてる。

なぜここまでウナギに魅せられ、のめり込むのか。私にもわからない。ウナギを求める旅は、今年も続く。