里山川海を歩くライターの活動記録

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新美貴資の「めぐる。〈137〉」 大鰻と龍の伝説 愛知県岡崎市の鰻池

〈『日本養殖新聞』2023年11月15日号寄稿〉

以前に愛知県に存在する鰻の付く地名について書いた。私が調べたところによると、県内には12ケ所の鰻の地名が残っている。その中の1つに、岡崎市羽根町の「鰻池」がある。それはかつてあった池の呼び名で、現在は土地の名前になっている。

この鰻池について少し調べてみたところ、古くからの言い伝えがあるらしい。興味がわいたので、現地を訪ねてみた。

愛知県のほぼ中央にある西三河地域の岡崎市。羽根町は、岡崎市の市街を占める西部に位置し、鰻池の地区はその町の東端にある。

羽根町には、岡崎市の動脈であるJRと愛知環状鉄道岡崎駅があり、大きなショッピングモールも建っている。閑静な町の中には新しい一戸建ての住宅が多く、地域全体が発展を遂げている印象を受けた。

この地に伝わる「雨ごい石」という昔話がある。

ずっとむかし、日照りが何日も続いた。村には川も池もない。百姓たちは集まって相談したが、よい考えが浮かばず困っていた。

その時、村で一番年寄りのおじいさんが言った。羽根の山の奥に池がある。その池にはきれいな水があるのだが、化け物がいる。これまで池に行った者で、帰ってきた者はいないという。

どうしても水を手に入れたい百姓たちは、鍬や鎌を持って池に行ってみることにした。池の近くまで来ると、うす暗い森の奥から突然おばあさんが現れた。

「わしはこの池のヌシじゃ。おまえたちは何しに来た」

おばあさんは、口が耳まで裂け、まんまるな目玉でにらみつけてくる。おばあさんが叫ぶと、あたりは真っ暗になり、大きな目玉だけが異様に光っている。

百姓たちは、目玉をめがけて必死で鍬や鎌を振り回した。すると突然大きな叫び声が聞こえて、あたりが明るくなってきた。見ると、そばには死んだ大鰻が横たわっていた。

その時、池の水が盛り上がり龍が現れる。

「わたしは竜宮の神様の使いである。大鰻がこの池に棲みついて困っていたのだ。助けてくれたお礼に雨を降らせてあげよう」

ひれ伏していた百姓たちが頭を上げると、龍の姿はなく、白い石が一つ落ちていた。それから雨が降ってきて、百姓たちは大いに喜んだ。そして、この白い石を羽根の神様に祭った。

この白い石は、雨ごい石と呼ばれ羽根の神社に祭られているそうだ。この池は鰻池、または雨ごい池と呼ばれている。この石を鰻池の水で洗って雨ごいすると、雨が降るといわれている。(参考:『おかざきのむかしばなし』岡崎市教育委員会発行)

羽根町の鰻池の地区内とその近くで、小さな貯水地のような所を2カ所見つけた。場所は町外れの丘陵地で、昔話にあった「羽根の山の奥」に違いない。駅の近くにある時計店で聞いてみたら、どちらも鰻池の跡ではないかという。白い石は、駅の西にある稲荷神社に祭られているそうだ。

「雨ごい石」の昔話にはさまざまな諸説があり、想像をかきたてられる。今後さらに調べていきたい。

雑草が生い茂っていた貯水地のような所。鰻池の跡か