〈『DoChubu』2012年1月31日更新、2020年4月22日加筆修正〉
年が明けた2012年。初漁であがった魚を見ようと訪れた先は、またまた桑名の赤須賀でした。1月5日が初漁と聞いて午前中にかけつけるも、漁港は閑散としており漁が行われている気配はまるでなし。前日の雪がこの日も残り、どんよりと曇った空からはみぞれがパラパラと降り続ける。風も強いことから今日は中止か……。がっくり肩を落として港を後にしようとしたら、漁協の方とばったり。聞けばシジミやハマグリの漁は中止も、シラウオだけは4組の船が出漁しているとのこと。
産卵のため春に川を遡上するというシラウオは、春を呼ぶ魚。赤須賀での漁は毎年1月から3月頃まで。年によって獲れたり獲れなかったり。漁獲量の変動が激しく、昨年はほとんど獲れなかったそうです。今年は漁にめぐまれるのかどうか。気持ちがそわそわして落ち着かないなか、操業を終えた船の到着を待ちました。
船が帰港するとさっそく寄って、獲れたばかりのシラウオを見せてもらいました。丸い大きなカゴのなかをのぞくと、大きさは5センチぐらい、半透明の細長い体をした小さな魚がびっしりとつまっています。陽を浴びて輝くシラウオを前に、どの漁師の顔からも笑みがこぼれます。
そして始まった昼過ぎからの入札。カゴにつまったシラウオが、次々と取引の行われる小屋へと運びこまれます。気がつくと、小屋のなかや周囲は多くの人だかりができ、ものすごい熱気です。今期初のシラウオを見ようと、地元の漁業関係者や報道陣、待ち望んでいた一般人などもつめかけ、漁港は大いにわきました。
この日のシラウオは揖斐川の河口で獲れたもの。獲った漁師によると、まだ体は小さく、これから成長し太ってくるのだそうです。この魚は「梅の咲く頃が卵をもってうまい」のだとか。地元のしぐれ屋では、たまりで炊いたものを「紅梅(こうばい)煮」と名づけて販売しています。
生のまま酢醤油で、また卵とじや唐揚げ、かき揚げにしてもおいしいシラウオ。生はプルプルとした歯ごたえでツルンとした喉ごし。火を通すとやわらかいフワフワな身は口のなかでくずれます。味わうたびに近づく春の足音が聞こえてきそうです。今年も訪れた海や川でたくさんの幸と出会えますように。シラウオの初漁でわく漁港を足取りも軽く、満足感いっぱいで後にしました。
(新美貴資)