〈『水産週報』2008年10月1日号寄稿、2020年5月25日加筆修正〉
海の博物館(石原義剛館長)主催のフォーラム「三重の漁業どうする」が2008年9月20日、三重県鳥羽市の同館内で開かれた。漁獲の減少や漁業者の高齢化、漁場環境の悪化のなか、これから進むべき漁業の方向について検討するため開かれたもので県、漁連も後援。JF全漁連の宮原邦之専務が「日本の漁業の現状を見る」と題して基調講演した他、漁業や行政関係、学識者らによるシンポジウムも行われ、それぞれの立場から踏み込んだ意見が発表された。
講演で宮原専務は、燃油対策に引き続き力を入れるとし、漁業者の少ない手取りを増やすため流通対策の必要性を強調。また魚食普及を漁業者が取り組むべき重要な課題にあげた。以下、発言要旨を掲載する。
▼日本の漁業の三重苦
漁業の三重苦の一つに燃油の高騰がある。3年ほど前から漁業者を直撃し、今年に入ってさらに急激に高騰。A重油の末端価格は5年前の約3倍にまで達している。7月15日の全国集会では、日本の漁業の存亡の危機を国民に訴え、一斉休漁への理解を求めた。
漁業は油を使わざるをえない産業。トラックやバスといった輸送産業の経費における燃油の依存率が10%前後なのに対して、漁業は40から50%になっている。このままでは漁業を継続していくことができないということで一斉休漁を行い、政府に745億円の緊急対策を講じてもらうことができた。
マスコミは我々漁業の最大の理解者であり支援者である。漁業の厳しい現状を取り上げてもらうことができ、漁業者の手取りが小売価格の4分の1でいかに少ないかということも理解された。
緊急対策が発表された途端、ばら撒きとの論調が一部マスコミからあった。しかし、燃油対策の省燃油操業実証事業は80億円で、あとは融資や水産物の買取りがほとんど。80億円では全国の漁業者を救うことができない。いま国会は止まっているが、漁業者の救済措置をいかに実効あるものにしていくか。燃油の高騰により全国の漁船が受ける影響は2000億円くらい。救済には最低800億円は必要で国に第二の矢をお願いしている。また21年度通常予算のなかでも燃油高騰対策として385億円が概算要求されている。
省燃油操業実証事業は、19年12月の燃油価格(1リットル86円)を基準に漁業者グループが燃油使用量を1割以上削減する実証事業に取り組む場合、燃油費増加分の9割について国が面倒を見るという内容で、安心して漁業を継続できる仕組みになっている。19年はすでに省エネに努めていて、これ以上燃油の消費を絞ることができない場合は、18、17年にさかのぼって基準をつくることができる。申請資料も簡単で手間がかからないようになっているのでぜひ参加してほしい。
輸入水産物の増大も三重苦の一つだ。いま輸入水産物は年間300万トン。貿易の仕組みが漁業にはプラスに働いていない。WTO(世界貿易機関)の前にはGATT(関税貿易一般協定)の問題があった。ガット・ウルグアイラウンドの時に日本の水産物は関税を大きく引き下げられた。
いま水産物全体の関税は4.2%と低い。農産物の大半が関税割当制度で保護されているのに対して、水産物はアジ、サバ、サンマなどわずか16品目がIQ(インポート・クォーター)で輸入制限をかけられているのみでそれ以外は自由化品目。大半は低い税率でどんどん日本に輸入されてきた。WTOの世界は我々の暮らしを直撃する問題だ。
資源減少と魚価安の問題も大きい。昭和58、59年頃、日本の漁業は1280トンの生産量があったがいまは570トンと2分の1以下。生産金額もかつて3兆円を超す勢いが、いまは1兆6000億円となっている。
魚価安の問題には、中間マージンが多くて漁業者の手取りが少ないということがある。小売価格における生産者の手取りの割合は、農産物に比べて水産物はきわめて少ない。手取りを増やす対策が必要だ。
燃油高騰、輸入水産物の増大、資源減少と魚価安が日本の漁業の三重苦であり、改善に向けて取り組む。
▼漁業再生への方策
流通のショートカット。この部分にメスを入れないと漁業者の手取りは増えない。7月15日の一斉休漁では築地の流通関係、イオン、ダイエー、イトーヨーカドーにも漁業の窮状に対して理解を求めた。イオングループからは燃油高騰分を上乗せした価格で販売する提案を受け、JFしまねの定置網であがったものをイオン関西地区約70店舗で扱った。生産者から直結した魚を買えるということで歓迎され行列ができるほどの人気だった。第二弾として石川県漁協に申し込みもきている。
生産者と小売の取り組みがさらに盛んになる。既存の流通の関係者からも、生産者に経費を還元できるような仕組みを講じたいとの要請がきている。今後も引き続き、漁業者の手取りが増えるよう流通の改革に取り組んでいく。
経営、流通対策と同時に輸出も視野に入れなければならない。国としても農水産物の輸出額を1兆円に拡大しようと力をいれている。魚価が下がって、消費者の魚離れが進むなか、輸出も片方の視野に入れておく必要がある。
▼漁業を守る最後のチャンス
魚離れを食い止めることは漁業者の課題だ。重要なのは、小さい頃に魚を食べるということ。若い時に魚を食べなかった日本人は、歳をとっても魚を食べないという。学校給食をターゲットに米と魚をうまく組み込み、魚離れを防ぐ食育をしていかなければ。
21世紀は食料危機の世紀。2060年に世界人口は100億人を超えると予想されている。いったいだれが食料を供給するのか。将来に向けて日本の漁業を守っていかなければならない。この4、5年が日本の漁業を守る最後のチャンスだ。
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全国一斉休漁によって漁業の窮状については多くの国民が知るところとなったが、いまも漁業者は苦しい経営を強いられている。浜を歩いて感じるのは、漁業者の操業に対する意欲の低下だ。漁獲の減少に加えて魚価安。燃油だけでなく、漁具資材や機器類の修理代などの値段も上がっている。経費ばかりがかさむなか、先の見通しも立たず浜の活気はますます失われつつある。燃油の高騰という危機を最後のチャンスととらえ、改革に挑戦して再生につなげることができるか。多くの国民が注目している。(新美貴資)