里山川海を歩くライターの活動記録

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食べ物とリンクする生物多様性 名古屋で「『さかな』を守る!漁業をまもる!」をテーマに意見交換

〈『水産週報』2010年10月1日号寄稿、2020年5月27日加筆修正〉

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多くの参加者がつめかけ漁業への関心を深めた

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が2010年10月18日より、愛知県名古屋市で開かれる。地球環境への問題に関心が高まるなかで、190を超える国、地域の代表が集まり、環境の保全や資源の持続的利用などについて話し合う会議には大きな注目が集まっている。そのCOP10の開催を前にして、同県では関連イベントが数多く行われており、その一つとして「『さかな』をまもる!漁業をまもる!」をテーマにした意見交換会が8月21日、同市内で開かれた。

この催しは、生物多様性条約市民ネットワーク(共同代表:高山進三重大教授、吉田正人筑波大准教授)によって企画された「ビオ・カフェ」で、今回が6回目。毎回、生物の多様性に関するテーマを取り上げ、その分野に詳しいパネラーが話題を提供し、参加者も加わって自由な意見交換を行っている。

今回、魚と漁業をテーマにした「ビオ・カフェ」では、生物の多様性に詳しいジャーナリスト、県内の漁業者、流通業者がパネラーとして招かれ、様々な話題を提供した。自然からの恵みを受けて成り立っている漁業について、多様な生物との関係だけでなく、食料産業としてのこれからのあり方や生活者がどう関わっていくかなど、幅広い意見がだされたので、その模様を紹介したい。

▼求められる情報の提供

この日、パネラーとして出席したのは、共同通信社科学部編集委員の井田徹治氏、おさかなマイスターで中部水産取締役販売部長の神谷友成氏、南知多町の豊浜漁協組合長の山本昌弘氏の3人で、一般からは約60人が参加した。

冒頭、生物の多様性や資源の問題について、国際会議の動きにも詳しい井田氏が「『さかな』と漁業を考える」と題して講演し、その後は神谷氏の司会で、パネラーによる意見交換が行われた。

講演の冒頭で「生物の多様性は食べ物とリンクしている」と述べた井田氏。世界の様々な海域でとれた魚介類がならぶ築地市場の写真を見せて、「魚市場で取り引きされている魚は野生生物であり、我々の暮らしを考えるよい切り口になる」と話し、日本が水産物の大消費国であることを説明した。

世界の漁業資源の動向について、「漁獲量は頭打ちで、資源が減って乱獲が進んでいる」とし、なかでも公海における高度回遊性のマグロ類やサメ類などで過剰な漁獲、もしくは資源の枯渇が著しいと指摘。日本が世界で最も消費しているマグロについて、クロマグロミナミマグロはほぼ全海域、メバチマグロも一部の海域で乱獲および資源の減少が起きていると述べた。

そのうえで、資源が枯渇する危機を見えなくしている大きな要因として、代替品の存在や漁場の交代をあげた。代替品として、タラからホキ、マサバからタイセイヨウサバなど。漁場の交代では、タコの産地がモロッコモーリタニアから中国、ベトナムへ。エビでは台湾からタイ、フィリピン、インドネシア、さらにはベトナムマダガスカルへと移り、日本の食卓から遠く離れた多くの漁場で資源の崩壊が繰り返されている実態を報告。

環境に与えるインパクトを無視してただ安ければいいのか。食物の出所や来歴についての情報公開は十分か。食物連鎖の上位にある魚を大量に消費する今の食べ方が正しいか―などの問題を提起し、資源の枯渇への対処として、①ラベリングと認証制度②トレーサビリティの向上―をポイントにあげた。

資源管理に配慮した漁業を第三者機関が審査し、認証を受けて漁獲された水産物に「エコラベル」をつけて流通、販売するMSC海洋管理協議会)の取り組み、携帯電話で魚種ごとの資源状態や安全・安心についての情報を提供する新たな動きなども紹介。季節の魚を生態系の上位から下位まで幅広く利用すること、大量仕入れや販売を見直すことが必要だと話した。

その後の意見交換では、流通や小売りからの情報提供がさらに求められており、消費者からの働きかけが必要である点も強調した。

▼無駄のない魚の消費を

伊勢湾で小型底びき網漁業を営む山本氏は、生産者の立場から漁業の現状や伊勢湾の環境について報告した。直面している一番の問題に魚価の低迷をあげ、厳しい経営から就業者が減少し、後継者が不足している状況に危機感を表した。

また、豊浜漁協をはじめ、同県で多く漁獲されているカタクチイワシについて、そのほとんどが養殖の餌向けで、「食用として利用されているのは数%。日本人の魚の食べ方が変わってしまった」と述べ、資源の有効な利用ついて問題を投げかけた。

昭和の最盛期から漁獲量が減っている伊勢湾について、その原因には沿岸の埋め立てや河川からの流入量の減少による影響も大きいと指摘。毎年冬場に海底を清掃すると、空き缶やペットボトル、テレビや冷蔵庫といった家電製品など、陸域からの様々なゴミが大量に回収されることから、伊勢湾の環境の悪化についても伝えた。

この他、漁獲対象のアナゴやシャコ、トラフグの小さなサイズは逃して獲らない資源保護の取り組みも紹介。「伊勢湾で獲れる魚の味は日本一。これからも愛知の魚を食べてください」と参加者に訴えた。

名古屋市場で日々たくさんの魚を扱い、また同県で唯一のおさかなマイスターとして魚食普及や食育にも力を入れている神谷氏は、二氏の話しを踏まえたうえで、「生物多様性も生物だけに目を凝らしていてはいけない」と話し、「我々の生活にも関係しているし、つながっている」ことを強調。サンマの資源変動や、エチゼンクラゲが大量発生した際にはそれを捕食するウマヅラハギの水揚げが増えたことなど、複雑な海の生態系について、市場からの話題を数多く提供した。

漁業者が果たしている様々な役割についてもふれ、資源や漁場を守るだけではなく、遭難者の救助や不審者の通報などによって日本の海岸線が守られているとして、「漁師を守ることが日本を守ることにつながる」と述べた。また、魚の消費が増えれば漁業者は助かるし、売れ残りがなくなれば販売する方ももっと安く提供できるとして、「皆さんの知恵で無駄のない魚の消費をしてください」と協力を呼びかけた。

参加者からは「愛知は漁業において多様性のある地域。生物多様性条約は食べ物の条約でもあると感じる。会議の開催地として、まずは地域のものを食べることから始めたい」など、多くの意見が寄せられた。(新美貴資)