里山川海を歩くライターの活動記録

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「駿河湾から伊豆海嶺の水産振興フォーラム」開催 海山の資源開発で漁業の発展を

〈『水産週報』2009年6月1日号寄稿、2020年5月26日加筆修正〉

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地域漁業の発展に向けて調査研究のあり方を議論した

水産海洋地域研究集会・2008年度「駿河湾から伊豆海嶺の水産振興フォーラム」がこのほど、焼津市内で開かれた。水産海洋学会、東海大学海洋学部、静岡県水産技術研究所、マリン・インパクト21による共催で、地域漁業の発展に向けて今後の調査研究のあり方を検討する初の試み。研究者や漁業関係者、行政担当者らが、駿河湾から伊豆海嶺におけるこれまでの調査成果や漁業の現状などを発表した。以下、フォーラムの内容を紹介する。

開会にあたり、水産海洋学会の渡邊良朗会長が「日本の水産業をどうしていくべきか。あらゆる分野の人が考え、力をあわせていかなければならない」。焼津商工会議所の松村友吉会頭が「効率の良い漁法を確立しなければ漁業経営は成り立たない。なかでもカツオ一本釣り、マグロ延縄漁業は厳しく、議論の成果を期待したい」とそれぞれ挨拶した。

続いて、司会であるマリン・インパクト21の小網汪世理事長がフォーラムの開催趣旨を説明した。駿河湾は日本一深い内湾で、水深2500メートルからなる中央部には「石花海(せのうみ)」と呼ばれる堆が存在。湾内には上層に黒潮系、中層に親潮系、底層に南極水系の海水が流れ込む複雑な環境で、サクラエビをはじめ水産資源も豊富にある。小網理事長は、大陸棚が少なく海嶺が多い日本の経済水域において、海山の資源開発が水産業の発展に大きな役割を果たすことを強調。これまでの調査を再検討し、現状認識を深めるべきだと述べた。

産学官の連携で効率的な調査を

話題提供に入り、上海海洋大学、大連水産学院の中村保昭教授が「駿河湾の水産海洋学的特性と効率的な調査・研究のあり方」について発表した。

中村教授は、駿河湾の複雑な海洋構造や生物の特性について説明。主な漁獲対象であるシラス漁場の分布、サクラエビの資源変動の要因について、これまでの調査から得られた知見を報告した。効率的な調査、研究を行うポイントとして、産学官の連携強化、研究者の人材育成をあげ、組織の横のつながりやキーパーソンの養成が最低条件とした。

さらに「地域から外を見る。外から地域を見るという国際感覚の醸成が必要だ」とも話した。今後の研究課題として、海洋の循環構造の解明や温暖化を視野にいれた取り組み、情報の共有などを提示。研究成果を県民に還元し、水産物の安定供給と水産業の発展につなげるべきと述べた。

続いて、県水産技術研究所技術開発部の津久井文夫部長が「石花海を中心とした駿河湾の漁業の現状について」発表した。

津久井部長は、漁業の生産性が高いと言われている「石花海」について、過去の研究事例や漁業生産の現状、海洋環境の特性などを整理して報告した。過去の研究結果によると、駿河湾内の漁獲量に占める「石花海」周辺の利用率は44%。「石花海」と隣接する西側海域を漁場とするまき網、シラスやサクラエビ船曳網による近年の漁獲量は6300トン、金額は57億円で、県の沿岸漁業に占める割合をそれぞれ26%、37%と推定した。

さらに、まき網漁業を行うある経営体について、07年の漁獲量800トンのうち169トンが「石花海」周辺からの漁獲である事例を紹介。この海域が好漁場であることを説明した。また、湾の西側海域の漁業生産の高さは河川水の流入と海底地形の影響が大きいとして、「沿岸域の海洋変動を理解する研究がますます必要になる」と述べた。

▼正念場を迎えるカツオ一本釣り

その後、焼津漁協市場部の横山高興部長が「駿河湾石花海・伊豆七島の焼津漁業発展に果たした役割と、生き残り再生への課題」と題して発表した。

焼津魚市場の08年の水揚げ金額は約492億円で、全体の99%が冷凍品。魚種別にみると、水揚げ数量の68%がカツオ。水揚げ金額は1981年の911億円をピークに減少を続けており、漁船数も70年の173隻から現在は81隻と半数以下に減っている。

横山部長は、漁業者の高齢化、魚価の低迷、漁獲規制、減船、海外まき網の漁場確保などを直面する問題としてあげた。なかでも漁獲が不振のカツオ一本釣りについては、「昨年から獲れなくなっている。ラニーニャ現象で1万トンほど減った。今年は正念場を迎える」と深刻な状況を説明。「食料自給率が低いなかで、漁業者がいなくなってしまったらタンパク質の供給をどうするのか。この問題を一緒に考えてほしい」と訴えた。

最後に水産庁国際課の宮内克政課長補佐が「天皇海山群におけるトロール漁業存続のための水産庁の取り組みについて」発表した。

北西太平洋にある天皇海山では、69年より我が国のトロール漁船がクサカリツボダイやキンメダイを漁獲。2004年の国連総会で「破壊的な漁業活動に関し、暫定的な停止を検討する」との決議が採択されたことから、同海域で操業する我が国、韓国、ロシアと沿岸国である米国の4カ国で、これまで6回にわたる政府間協議を開催した。宮内課長補佐は、資源の持続的管理の国際的枠組み設立に向けた話し合いの中身について説明。海山に対して共通する研究課題については、「脆弱な生態系が注目されており、科学的な解明が必要。漁業対象種についての知見を深めるべき」と述べた。

その後、総合討論に入り、これまでの発表に対する意見や水産振興に向けた提言が寄せられた。駿河湾での漁海況調査について、東海大の杉本隆成教授は「漁業者の情報は欠かせない。研究者だけでなく漁業者との協力体制をつくるべき」などと発言。会場からも焼津地域の活性化に向けて、「駿河湾には豊かな自然が残っている。全国の学校に修学旅行先として誘致できれば、お金も落ちて町おこしができる。もっと情報発信して、地元をいかした魚も提供してほしい」との声があがった。

                   ◇

駿河湾、伊豆海嶺について産学官が意見を交わす初めて試みとなった今回のフォーラム。漁業資源の生態や回遊の解明など、多くの課題があがったが「漁獲データを活かせば調査はさらに充実する」といった発言からも、まずは調査における研究者と漁業者との連携が急がれる。研究で得られた成果は漁業関係者に還元し、情報の共有と交換を活発化させることはもちろん、流通や加工業者、一般にも広く情報発信して、意見を求める取り組みも必要だ。漁業の深刻な不振は、地域全体の経済にも大きな打撃を与え続けている。水産都市の焼津で始まったこのフォーラム。地域の水産振興を考える場として、多くの関係者の参加のもとで、さらに活発な意見交換が行われることを期待したい。(新美貴資)