里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

「厳しい漁協経営、自助努力で改善を」フォーラム「三重の漁業どうする」漁連会長、漁業者、研究者らが意見発表

〈『水産週報』2008年10月15日号寄稿、2020年5月25日加筆修正〉

f:id:takashi213:20200525094724j:plain

5人のパネリストがそれぞれの立場から意見を発表した

前回に続いて、2008年9月20日に海の博物館(石原義剛館長)主催で開かれたフォーラム「三重の漁業どうする」の模様を紹介したい。

石原館長がコーディネーターを務めたシンポジウムでは、パネリストとして山川卓東大大学院准教授(元県科学技術センター研究員)、佐久間美明鹿児島大准教授(元三重大助教授)、石垣英一(財)県産業支援センター理事長(元県農水商工部長)、矢田昭二漁青連会長、岩城健漁連会長が出席。それぞれの立場から漁業の再生に向けた提案を発表した。質疑応答の後、石原館長がこれまでの議論を総括、意見を述べて終了した。以下、要旨を発表順に掲載する。

■個別燃料割当制を沖合漁業に

山川氏:燃油コスト節約のため、「燃油消費量管理型漁業」を全国的な運動スローガンとして「資源管理型漁業」とセットで推進してはどうか。コスト低減に向けて、期毎の燃油消費量の船別目標値の設定、漁場輪番制、休漁など漁業者の協調行動を促進する。ビジネスの売上目標設定と同様に数字を見えるようにすることが大事だ。

譲渡可能個別燃料割当制(ITOQ)による沖合漁業の管理を提案している。「量」から「質」へと勝負する経営へ転換し、資源水準に応じて漁獲能力を調節。金融担保により資金繰りも確保できる。漁船許可の漁船トン数制限を撤廃し、規制を緩和することで漁船設計の自由度も向上させることができる。

国内のブリの漁獲をみると、50年以降、定置網に代わってまき網の漁獲が増えている。年齢別の年間漁獲尾数は0歳魚が約3~4万尾(養殖用モジャコを除く)、1歳魚が1000万尾、3歳以上が100~200万尾と試算される。ツバス、イナダ、ワラサとブリの0~1歳魚をみても、1尾当たりの値段はツバスが約125円、イナダが500円、ワラサが3000円。少し獲る時期をずらすだけでかなり利益が違ってくる。資源全体をみて漁獲を考える必要がある。

地元水産物の消費拡大策として、水産エコラベル制度のような公的、非営利機関などによるお墨付きだけでなく、地元鮮魚の取扱店を漁協・系統が独自に認証・推薦して差別化してはどうか。スーパーへの地元鮮魚コーナーの設置を依頼し、より多く扱う店を差別化する。地場産品の扱いに対するスーパー間競争を導入し、大手量販店による価格決定からの脱却を図るべきだ。

■地元主導で自己改革を

佐久間氏:漁業生産のリストラとして、漁獲努力を制限するためにも年配漁業者の引退を促し、若い漁業者の活躍できる場を広げるべき。

既存流通で売れる魚の種類が減っている。売れる魚を獲ろうとして、地域内の漁獲競争が激化し、資源が枯渇しやすくなっている。漁業者は減っているが、機器の進歩で漁獲能力は高くなっており、乱獲されやすい。環境や資源の変化に応じた計画的な漁業生産を行い、未利用資源の有効利用も視野に入れた取り組みが必要だ。

量販店への売り込みは必要だが、欠品や品質管理への対応が難しく、利益をあげている漁連は全国でごくわずかしかない。既存流通相手の商売には限界がある。魚離れには、主婦の家事に費やす時間の減少と流通業者が魅力ある魚を売ってこなかったことが大きい。三重の資源を丸ごと有効活用することを目指し、各魚種を適正量漁獲。おいしい食べ方を情報発信し、新たな加工製品を開発していくことだ。安値で売られる既存のスーパーとは別に、おいしい魚を食べることのできる場をつくってはどうか。例えば、九州、中国、関西で事業展開するグリーンコープでは、宅配野菜に欠品があって当たり前というお客も存在している。こうした消費者を育てて商売していくことも必要だろう。

地元主導で漁業生産を自己改革しなければ、外部の資本が入ることになる。九州の養殖産地では外部資本の参入が増えているが、数年で撤退することも多い。地元主導でなければ、資源を守り有効利用していくことは難しい。低コストの生産ができるよう、意欲と能力のある若年層が中心となって漁場利用を広く考えていくべきだ。

■環境改善と資源回復が必要

矢田氏:鈴鹿市漁協に所属し、コウナゴなどを対象とする船びき網、アサリ採貝、クロノリ養殖を行っている。

いま漁場となる伊勢湾は危機的状況にある。昨年の鈴鹿地区のクロノリは、赤潮によって色落ちが激しく、平年に比べて数量は約2分の1、平均単価は6割。金額にいたっては10年前の6分の1にまで落ち込んだ。赤潮は大量のヘドロとなって堆積し、アナゴやシャコ、アサリにも被害を与えている。また地球温暖化による魚介類への影響も心配だ。

高齢化と後継者不足で漁業の存続が危ぶまれている。若者が多い鈴鹿地区でも60歳以上が50%を超えている。後継者問題を考えるうえで最大の課題となるのが所得。安定的かつ他産業と比べても十分な所得が確保できれば、自然相手に自分の腕でかせぐ漁業の魅力も見直される。そのためには、疲弊しきった漁場環境を改善し、資源の回復を図るべき。

魚価の立て直しも大きな課題だ。いま伊勢湾でもっとも獲れるのがカタクチイワシ。通常一かご1000円~2000円だが、水揚げが多いと数百円にまで落ち込んでしまう。目指すのは、資源管理を進めながら少しでも鮮度の良い高品質な水産物を安定的に生産していくこと。その結果、高値で売れて安定した所得が確保できれば後継者も参入できるようになる。

 ■欠損金をださない漁協経営をすべき

岩城氏:漁協経営は事業量が減少し、収益が低下。未集金の増加や貸付金の固定化など大変厳しい。事業の見直し、経費の削減などの対応が遅れ、悪化の一途をたどってきた。県下の沿海40漁協のうち15で経営不振の状況がみられ、思い切った経営改善をしなければならない。質の向上とコスト改善へ自分で責任をもつ組合員、漁協が集まることで協同のメリットが発揮される。漁協は組合員に余分な負担をさせないため、欠損金をださない経営をするべき。

業界の環境は急速に変化しており、漁協経営も変化せざるをえない。組織機能を見直し、組合員の自助努力で漁協経営の基盤強化を図る。合併はそのための手段だ。痛みの伴わない合併は、その後の対策を遅らせ、欠損金が膨らむ結果につながりかねない。また販売事業の再構築に向けて、三重県産商品の差別化を進める。漁業者、漁協、漁連が役割分担して、安全・安心な健康志向にマッチした商品を開発し、川下に対しての情報開示に努めたい。

漁協経営の黒字化には事業、支所、工場別の収支を明確にしてきちんと分析する体制をつくることだ。基盤強化は合併も視野に入れる必要があるが、欠損金や不良債権が多い漁協は経営改善計画をつくり、第三者機関で内容を見極め自力で黒字化に取り組むべき。この際に内部で適正機能が働くことが重要だ。

後継者問題では、安定した収入が得られるよう藻場、干潟づくりや資源の増殖に力を入れる。担い手の受け入れについては行政とタイアップして進めたい。温暖化など環境問題が大きくなるなか、海や浜のもつ多面的機能は漁業者がいなければ発揮できない。漁協や漁業者の存在感は十分にある。

■農水商工連携で地域を元気に

石垣氏:いま三重県は元気がいい。17、18年の実質成長率は7~8%。ただその成長の中身は第2次産業で農林水産業は厳しい現状にある。三重県は全国でも有数の水産県であり重要な産業であるが、漁業は就業者の減少と高齢化が進み、海の環境も悪化している。

消費者の安全志向、世界の人口増加で食料資源の取りあいが予想される。世界的な食料危機の時代が来た時に水産資源をどう確保するかは大きな課題だ。県では資源管理、漁協組織の基盤強化、漁場環境の改善、多面的機能の強化に取り組んでいる。

また、伊勢エビなど「三重ブランド」の確立や安乗フグ、岩ガキなど新たなブランドをつくることで付加価値化を進めている。

今年から地域を元気にするため、その土地がもつ資源を活用した農水商工連携に力を入れている。資源をもう一回活用して、1次から3次産業までを結んでビジネスにつなげる。消費者ニーズにあったマーケットインの新たな商品づくりを進めたい。

■海の森づくりへ

石原氏:伊勢湾は貧酸素状態が続いている。ヘドロ堆積の問題は未解決で、青潮の発生につながりアサリやノリの生産に影響を及ぼしている。その一つの解決策として三重県では藻場・干潟の再生に取り組んでいる。いま地球温暖化のなかで林業が環境を守るとりでとして脚光をあび、手厚い支援を受けているが、海の藻場や干潟には陽があたっていない。藻場、干潟は漁業生産の基盤である稚魚や稚貝を育てる場所であり、海の森づくり運動を始めるべき。「森は海の恋人」として陸に森をつくる運動は進められてきた。我々は海に森をつくる気持ちで藻場づくりに取り組まなければ。漁協は漁場の10%を禁漁区にして森づくりの場所にするような思い切った運動をやってみてはどうか。(新美貴資)