里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

名古屋市場で魚や流通について学ぶ 愛知県が企業と連携して親子食育教室を開催

〈『水産週報』2010年9月1日号寄稿、2020年5月27日加筆修正〉

f:id:takashi213:20200527153828j:plain

マグロの中落ちをスプーンでとる子供たち

行政や企業、生産や流通、消費者団体など、さまざまな組織が主体となっての「食育」の取り組みが、各地で盛んに行われている。朝食を抜いたり、偏ったものばかりを食べたりと、食生活の乱れが指摘されている昨今、食の大切さについて学ぶ「食育」の重要性はさらに増している。

愛知県内でも「食育」の活動は活発化している。このほど、県と「食育」に積極的な地元の企業10社からなる「あいち食育サポート企業団」(以下、企業団)などが親子を対象にした食育教室を開催した。企業による講義や実習、工場見学などバラエティに富んだ内容で、佃煮メーカーによるたつくり作り、名古屋市中央卸売市場本場(以下、名古屋市場)での鮮度の異なる魚の食べ比べなど、水産物を扱った授業も行われたので、その模様を紹介したい。

県食育推進課は2010年8月10、11日の両日、「夏休み!親子de食育」を企業団などと連携して開催した。親子で一緒に見て、聞いて、触れることで食について学ぼうと、夏休みに企画されたこの催し。昨年に続いて開催され、今回は先月に続いての教室となる。2日間にわたって行われた授業には、小学4年から6年生とその保護者、20組40名が参加した。

初日は名古屋市内で講義と実習があり、県歯科医師会、佃煮メーカーのカネハツ食品(名古屋市)、飲料メーカーのポッカコーポレーション名古屋市)、漬物メーカーの丸越(名古屋市)が、それぞれ製造する食品について、クイズや試食、製品づくりの体験実習などをまじえ授業を行った。

▼簡単でおいしい「たつくり」作りに挑戦

「日本の伝統料理を学ぼう!」と題して行われたカネハツ食品の授業で、参加者は佃煮の歴史や含まれる栄養について、クイズ形式で楽しく学んだ。

「佃煮ってどんな食べ物か知っていますか」。講義を行った販売管理部の前田淑恵さんが子供たちに尋ねると、一斉に手が上がる。昆布や魚、貝を砂糖としょう油で味付けした佃煮は、昔から食べられてきた日本の伝統的な料理。製品になるまでには、海で収穫する漁師、運ぶトラックの運転手、工場でつくる従業員、スーパーの店員など、「いろんな人の手を通してつくられている」ことを説明。佃煮には、カルシウムや食物繊維など、いろんな栄養がたっぷり含まれていることも、他の食材と比較して紹介した。

講義のあとは楽しい実習へと移り、参加した親子には、それぞれ小魚とナッツの入った小皿、甘辛いタレの入った紙コップが配られ、簡単にできる「たつくり」作りも行った。前田さんの「ナッツを入れることによって、お菓子のような感覚で食べることができる」との言葉通り、どのテーブルも作った後は親子で試食の手がとまらない様子だった。

最後に同社が考案した「たつくりキャラメル」が配られると、口にした参加者はそのおいしさにびっくり。小魚に砂糖やバター、ナッツをまぜてつくったユニークな食べ方が好評で、「おいしいね」との会話あちこちで聞かれた。「日本の伝統料理に馴染みをもってくれれば」と前田さん。こうした新たな食べ方で魚食の機会を増やそうとする企業の取り組みが、今後ますます見られそうだ。

2日目は現地見学が行われ、参加者は午前中、「魚が食卓に届くまで」をテーマに名古屋市場で市場の役割と水産物の流通のしくみを学んだ。午後からは、味噌や豆乳などを製造するマルサンアイ岡崎市)、敷島製パン名古屋市)で工場を見学した。

f:id:takashi213:20200527154033j:plain

名古屋市中央卸売市場本場を歩き、冷蔵倉庫のなかを見学した

▼鮮度の違う魚を食べ比べ

名古屋市場の管理棟で開かれた教室では、市場内で日々多くの魚介類を扱う卸売会社・中部水産の取締役販売促進部長である神谷友成さんが、魚の歯や骨のつき方、鮮度の違いによる食感や味の違いなどについてわかりやすく説明。鮮度の異なる魚の食べ比べも行われた。市場内にある同社の冷蔵倉庫の見学や青果を扱う卸売会社の名古屋青果、食品衛生検査所担当者による講義もあり、盛りだくさんの内容となった。

愛知県で唯一のおさかなマイスターである神谷さん。冒頭に「マグロは何を食べて、どんな歯をしていますか」と、子供たちに質問。「市場なので本物を見せましょう」と言って、テーブルに乗せられたのは、大きなマグロの頭。子供たちはかけよってマグロの口のなかへ次々と手を差し入れ、歯の形やつき方を確認した。

神谷さんは、小魚を食べるマグロの歯、肉を食べるライオンの鋭い牙、葉をすりつぶして食べるキリンの歯の違いを説明。歯の形は食べ物に関係することから、「人間の歯は肉も野菜もいろんなものが食べられるようにできている」と話し、好き嫌いなく食べることの大切さを子どもたちに教えた。

その後は、市場内にある同社の冷蔵倉庫へと移動。参加者は冷凍の魚や食品が保存されているマイナス50度の倉庫に入り、その寒さを肌で体感した。初めての体験に全員がふるえながらも興奮した様子で、倉庫内を見て学んだ。

再び管理棟にもどり、名古屋鮮魚卸協同組合青年会のメンバーが子供たちの目の前でカンパチのさばき方を解説しながら実演。青年会会長の岩田隆臣さんが「『いただきます』は命をいただくということ。魚にも野菜にも命があって、みんなそれを食べて生きているんだよ」と、熱心に見つめる子供たちに話しかける。神谷さんや青年会メンバーらの指導で、子供たちは指を使ってイワシをさばくことにも挑戦。マグロの骨と骨の間についた中落ちをスプーンでとる体験も楽しんだ。

最後に、同じカンパチで活きていたもの、しめて時間をおいたもののそれぞれを刺身にして食べ比べ。色や弾力、匂いなどをチェックした後、口にいれて食感や味の違いを確かめた。活きていたもののほうはコリコリした食感で、しめて時間をおいたものはとてもやわらか。「歯ごたえが全然違う」と、その差に子供だけでなく親も驚いていた。

昨年に続いて親子食育教室の現地見学の一つとして行われた名古屋市場での授業は、参加者からも好評のようだった。普段、なかなか入る機会のない市場でのさまざまな体験は、子供だけでなく親にとっても新鮮だったに違いない。今後も行政と連携しながら、事業を営む企業や団体が一体となって、「食育」だけでなく食の情報発信の場としても、市場がさらに活用されることを期待したい。(新美貴資)