里山川海を歩くライターの活動記録

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漁業の衰退に高まる不安 愛知県内の漁港を歩く

〈『水産週報』2008年8月15日号寄稿、2020年5月25日加筆修正〉

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休漁中の漁船が並ぶ豊浜漁港

全国一斉休漁で愛知県内の漁業者も操業停止に踏み切った。燃油の高騰によって漁業経営は破綻寸前。赤字覚悟の出漁が続き、意欲の低下に歯止めがかからない。漁業者からは悲鳴と落胆の声が聞こえてくる。

県内有数の水揚げを誇る南知多町の豊浜漁港。この日は遊漁船を含むすべてが出漁を見合わせ、人気のない港内は静まりかえった。

「油の値段が上がっても魚の値段は上がらない。この状態が続くと漁業をやめる人も増えるのでは」。小型底びき網を営むベテラン漁業者の声はさえない。今も週5日操業するが、「雨が降ったらやめるし、漁が良くない時は無理して出ない」。出漁を見合わせる日は以前よりも増えた。一日の水揚げ金額は5万から10万円ぐらい。燃油代は3万5000円かかる。「今のところなんとか採算はとれている」と話すが、船の保険料、氷代や販売手数料などの経費がかさむため経営は厳しい。

 一日12時間の操業はかなりの重労働。余裕があれば若手の力も借りたいが、「若い人を使うと食っていけない。だから夫婦になってしまう」と苦しい現状を打ち明ける。燃油の節約で操業時間を短縮しても、「やめたらやめただけ水揚げが減ってしまう」とこぼす。「今は漁が揚がっているが、獲れなくなるとまずい」「燃油代が一日で5万円にいったらもうだめ」。不安を抱えながらの操業が今も続く。

 豊浜漁協の松本寿美雄参事は、「今の状態が続くと漁業者は収入が減って資本投資できず、意欲があっても廃業に追い込まれてしまう。後継者も育たず漁業は衰退してしまう」と危機感をあらわにする。

常滑市の鬼崎漁港では、小型底びき網を行う漁業者が「網が大破したら今年はやめる」と力なく話す。燃油の高騰後は漁場を近くに移し、網も小型のものに変えた。速度も落として省エネ操業を続けるが「獲れる量が減ってしまう」。人件費を減らすため沖へは独りで向かい、網の修理も自前で行う。陸上作業も入れると一日の労働時間は16時間にも及ぶ。自己努力で経費を切り詰め日々が続き、心身ともに疲労は限界に達している。

水揚げは最低6万円を確保しなければ採算がとれないが、実際には3万から10万円と日によって波がある。「魚価は昨年と変わらない。信じられないくらい安い」。漁獲物は港で買い手がつかない。隣の市まで片道1時間かけての運搬も重い負担となっている。

20、30代の若手が増え、浜に活気が戻ってきたところで受けた燃油高騰による打撃。今年で3年目という青年漁業者は「儲からないから漁に行く気が起きない」と言葉も少ない。

「漁のテクニックが身につくのは40の頃。その頃までもつか」。ベテラン漁業者は後継者の行く末を心配する。最後に口から出たのは「壊滅的状態」という言葉。先の見えない現状が続くなか、浜には重苦しい雰囲気がただよっていた。(新美貴資)