〈『DoChubu』2013年1月30日更新、2020年4月24日加筆修正〉
新鮮な魚介類が豊富にならぶ愛知県南知多町・大井漁港の「とれとれ漁師市」。地元の漁師さんたちが、獲った魚を自分たちの手で消費者に直接売ってみたいと企画をねり、大井まちづくり協議会などの協力を得て、昨年(2012年)5月から始まった催しです。毎月日曜に2回ペースで開かれ、伊勢・三河湾で獲れる旬の魚介はもちろん、地元で生産された野菜や花き、しょう油、味噌、水産加工品などの特産品も販売され、毎回にぎわいをみせています。
記者は第1回の開催となった5月の市におとずれたのですが、会場は多くの買い物客でごったがえし、目当ての魚を求めて売り場に殺到する人々のなかで、おいしい海の幸を味わいたいという消費者の熱い思いを肌で感じました。あれから半年近くがたち、漁師さんや地元の方々と再び会えるのを楽しみに、2012年11月25日(日)、12月9日(日)の2回にわたって、市が開かれた大井漁港を歩いてきました。
新鮮な海の幸がいっぱい
午前10時の開催を前に会場となる大井漁港につくと、すでにたくさんの買い物客の姿が。大漁旗がはためく漁港には、数軒の漁師さんのほか、野菜や花き、生ノリやシラス干しなどの水産加工品、しょう油や味噌、お弁当などを販売するテントや軽トラックがならんでいます。
底びき網や刺し網、潜水などの漁が行われている大井では、水揚げされる魚の種類も豊富で、このときに販売されていた魚介類は、エビやカニ、タコやイカ、貝などをあわせると20種以上になるでしょうか。人の波をかきわけて漁師さんのテントをのぞいてみると、目がすんで魚体がぴかぴかに輝くタチウオやシロギスなど、獲れたばかりのたくさんの鮮魚が皿に盛られてならび、生け簀のなかには活きたスズキやクロダイが。別の売り場では、サザエやウチムラサキ(オオアサリ)、タイラギといった貝や旬のナマコが販売されています。
売り場の前に陣取る人々は、シロギスやシャコ、サルエビの入った皿をしっかりとつかんで放そうとはしません。ねらった魚介を逃すことなく手に入れようと、どの顔も真剣な表情で開始の合図を待っています。
いよいよ市が始まると、会場全体が一気に慌しさを増して、売るほうも買うほうも大忙し。売り場はもう大混乱です。漁師さんたちは家族総出で客の応対や魚の補充に追われ、目がまわるような光景があちこちで繰り広げられます。威勢のよいかけ声があちこちから聞こえ、飛ぶように売れていくたくさんの魚たち。全員が主役の市のにぎわいは、始まってから最高潮を迎えます。買い物を終えた客はみんな大きな袋を手にして、どの顔にも満足の笑みがうかんでいます。
記者も売り切れてしまう前に、生ノリとアナゴ弁当を購入しました。産地でなければなかなか手に入らない貴重な生ノリは、三杯酢とあえたり、味噌汁に入れたり、佃煮にしてもおいしいよと若い漁師さんが教えてくれました。売り場で魅力的にうつったアナゴ弁当は、甘辛いタレで煮つめたやわらかな身がご飯にぴったり。その場で陽光をあび、潮風にふかれながらいただきました。市は午後1時ぐらいまで開かれており、地元の人々と会話をかさね、交流を深めながら、ゆっくり買い物を楽しむことができます。
生産者と交流できるのが大きな魅力の「とれとれ漁師市」。新鮮な海の幸が買えるだけでなく、地域の活性を呼びおこし、地元のさまざまな情報を発信する場としても、盛り上がりをみせています。寒さはとても厳しかったけれど、多くの人々が集い交流する漁師の市は、とってもあたたかな空気で満たされていました。
(新美貴資)