〈『DoChubu』2013年1月5日更新、2020年4月24日加筆修正〉
三河地域の伝統食であるハゼの甘露煮。その製造が師走に入り、最盛期を迎えています。愛知県豊橋市に本社がある平松食品の御津工場(豊川市)では2012年12月4日(火)、ハゼの甘露煮づくりが報道関係者に公開され、記者も参加してきました。
ハゼに串を通して素焼きにし、釜でじっくりと炊き上げてつくる甘露煮。同社によると、今年は三河湾で獲れるハゼがかつてない不漁でしたが、中国産のものを仕入れておぎない、つくる技術が絶えないよう生産を行っているとのこと。甘辛いタレの濃厚なにおいが立ちこめる工場では、多くの従業員がハゼに串を打ったり、炊き上がったものにタレをかけたりと作業に追われていました。
同社では27日まで製造を行い、昨年と同量の約5トンを生産。28日から年末にかけて市場などに製品を出荷する予定にしています。
地域の食文化を伝える
工場のなかを同社社長の平松賢介さんが案内してくれました。出来上がるまでに3日間かかるというハゼの甘露煮づくり。串を打ったハゼは形を整え、余分な水分をとってから、尾を焦がさないようにして両面を素焼きしていきます。釜につめて一晩寝かせたら、3時間半かけてじっくりと炊き上げます。炊き上げる際には、水の状態から調味料を順番に加え、徐々に濃度を高めて味をしみこませていくそうです。釜で魚が煮崩れしないよう、竹かごを使うのも昔からのこだわりの一つ。炊き上がったら何度もタレをかけて、照りをだして仕上げていきます。
ちょうど工場を訪れたときは、「曲がりハゼ」の甘露煮づくりが行われている真っ最中でした。大きなハゼの体を「の」の字のように曲げて串を打ち、製造する「曲がりハゼ」は、名古屋で好まれる限定ものなのだそう。
ハゼはすばやく餌を食べることから、「すばやくことをなす」縁起のよい魚とされ、甘露煮は東京から三重あたりまで食べる文化が定着しています。甘露煮には含まれる水分が多く、傷みやすいことから、保存性を高めようとタレをたっぷりかける「かけダレ」の技術がこの地域では発達しているそうです。
できあがった甘露煮を見ると、何度もかけられたタレが魚体をおおって艶やかな輝きを放ち、食欲をそそります。平松さんは「これからもハゼの甘露煮づくりを続けていきたい。この地域の食文化を大切に伝えていきたい」と、言葉に力をこめて話していました。
(新美貴資)