里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】創業140年の伝統を守る。こだわりの佃煮をつくり続ける「角鍬商店」

〈『DoChubu』2011年1月14日更新、2020年4月20日加筆修正〉

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伝統の味を守り続ける4代目の野田よし江さん(右)、5代目の卓志さん

岐阜県関市で地元の川魚を使った佃煮を製造、販売する「角鍬(かどくわ)商店」。創業は江戸時代の末期。140年以上の歴史を経て、いまなお伝統の味を守り昔ながらの製法で佃煮をつくり続けています。原料となる川魚の確保から煮炊きにいたるまで、最上の製品をつくるため一切の妥協を許さず、こだわりの味を今も追求し続ける。そんな頑なな姿勢を貫き、多くの常連客から愛されているお店を今回は紹介します。

市場に出回らない貴重な魚「イカダバエ」

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漁師さんから直接持ち込まれた、とれたてのイカダバエ

角鍬商店では、地元の長良川およびその支流でとれる魚を主に使って佃煮を製造し、店舗で販売しています。地元では「イカダバエ」と呼ばれているシラハエ、「ウルル」と呼ばれているヨシノボリの佃煮は、同店の看板商品。その他にも、地元で安全・安心にこだわり良質な地下水で養殖されたアユをはじめ、モロコ、蜂の子などの佃煮もつくっており、こちらも人気です。

製造から販売まで、お店を切り盛りするのは4代目の野田よし江さん、息子で5代目の卓志さん。イカダバエは冬場、ウルルは夏場に脂がのっておいしいシーズン。漁師さんから毎日魚が持ち込まれる忙しい時期は、早朝から夜遅くまで、製造・販売と休む間もなく作業が続きます。

お店うかがったこの日は、イカダバエの入荷が始まった12月末。漁師さんによって直接運び込まれた、長良川でとれたばかりのイカダバエを見せてもらいました。一つひとつの小さな魚体がまぶしいくらいに光り輝いています。イカダバエは傷むのが早いため、市場の流通にものることのないとても貴重な魚。新鮮なうちにすぐに加工場で煮炊きされ、佃煮に仕上げられます。

丹精をこめて最高の佃煮をつくる

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昔ながらの製法でイカダバエを煮炊きするよし江さん

卓志さんに加工場を案内してもらいました。甘辛い醤油の豊潤な香りがたちこめるなか、秘伝のタレによって煮炊きされるイカダバエを、じっと見つめるよし江さんがいました。炊きあがりの状態をみながら、ときおりかき混ぜたり火加減を調節したり。鍋と向きあう真剣な姿から、製造中は一切気を抜くことができない、緊張を強いられる大変な作業であることが伝わってきます。丹精こめて行う一つひとつの作業の積み重ねが、最高の佃煮を生むのです。

伝統の味と食文化を守る

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炊きあがったばかりのイカダバエの佃煮

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(左)お値打ち価格で購入できることから人気の「鮎の甘露煮」(右)「若あゆ昆布巻」、「子持ちあゆ昆布巻」もおすすめです

できあがったばかりのイカダバエの佃煮をいただきました。口に入れてかみしめると、イカダバエの独特なうま味があふれでて、甘辛いしょう油ダレの味と一緒にじんわりと口の中に広がります。魚好きにはたまらない味で、お酒はもちろんご飯にもとても合いそうです。すこし置くと、より味がしみ込んでなじみ、おいしくなるそうです。

おいしい佃煮をつくるうえで大切なのは「魚の鮮度。あとは魚自体の質」なのだそう。角鍬商店では、保存料や甘味料は一切使いません。余計なものは一切使わず、おいしさをひたすら求め、お客に提供して喜んでもらう。

「手抜きをしない。味が落ちるならやらない。大変な思いをしても、おいしい状態でみなさんに食べてほしい」。伝統の味、川魚の食文化を守りたい。そしてもっと若い人たちにも佃煮を食べてもらいたい。そんな思いを熱く語る卓志さん。

一切の妥協を排し、こだわりぬいた本物の味がここにあります。角鍬商店の佃煮をぜひ一度、味わってみてください。(新美貴資)

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