里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

長良川で生きる―若手漁師の「結」の物語(1) 一番難しい魚捕りの「ぼうちょう網漁」を体験

〈2015年7月28日執筆、2020年5月23日加筆修正〉

f:id:takashi213:20200523105738j:plain

川漁師として長良川で生きる平工さん

長良川で生きる」。そう固く誓い、強い意思を胸に秘めた一人の若き川びとがいる。

平工顕太郎さん。31歳。川漁師として、最年少の鵜舟船頭として、また漁舟でエコツアーを行う「結(ゆい)の舟」代表として、三足のわらじをはき、今日も長良川で一日を送る。

魚を捕ったり泳いだり、長良川を遊び場にしてたくましく育った青年は、関東の大学でアユの研究をした後、地元にもどりサラリーマンや団体職員として働く。その間も、川への思いは消えることなく、さまざまな形で関わりを持ち続けた。

故郷の川で漁師として生きる。ずっと抱いていた目標に向かって、走り始めたのは2年前のこと。以来、金華山が見守るこの地で、自然の息吹を感じながら、先人たちが培ってきた漁の技と知恵の習得に励む。

伊吹おろしがびゅうびゅうと吹き荒れる真冬の1月。鏡島の河原では、イカダバエを捕るぼうちょう網漁で使う、長竿を作る作業が朝から行われていた。平工さんと、若手の漁師仲間であるSさんも一緒だ。このあたりでイカダバエと呼ぶオイカワやウグイの稚魚は、5センチくらいの小さな魚で、佃煮にして食べる文化がある。

長良橋のあたりに昔、貯木場があった。郡上で切り落とした材木を、長良川の水運を利用してこの場所まで流し、いかだを組んでとどめた。その下に、たくさんのハエがついたことから、イカダバエと呼ばれるようになったという。漁師歴40年のOさんが、竿の継ぎ目に漁網を巻いて補強する「口巻き」のやり方を二人に教えながら語ってくれた。

この日は、近くを流れる小さな支流で、Oさんから「ぼうちょう網漁」を初めて習った。長竿を操り、先端につけた黒い布きれを鵜のように見せて、川面を走らせる。群れる魚をおどして四つ手網のなかに招きいれる、大正の頃より続く伝統漁法だ。追い手と受け手に分かれ、組で行うこの漁は「習得するのに30年近くかかる一番難しい魚捕り」と、この川を知り尽くした老漁師は、若者たちに穏やかな視線を送りながら話す。

ゆるやかな流れのなか、漁の練習が始まった。平工さんは長竿を握り、川下からゆっくりとイカダバエの群れを追う。「こいよー!あげよー!」。Oさんが声をはりあげ指示を送る。長竿を必死で操り、網をすくい上げると、たくさんの小さな魚体がきらめいた。

 ぼうちょう網漁は、長良川にやってくるアユの溯上状況を調べるため、毎年春に実施される試験採捕でも行われる。ベテラン漁師は次代を担う若人に長良川の未来を託す。竿の感触を記憶に刻み、汗をぬぐう平工さん。「魚が見えると我を忘れてしまうくらい楽しい!」。そう言ってうれしそうに目を輝かせた。

f:id:takashi213:20200523105903j:plain

長竿を握る平工さん。全員が息をあわせ、魚を四つ手網の中に追い込む漁は、魚との知恵比べだ

f:id:takashi213:20200523105950j:plain

イカダバエの群れを追い込んだら網をあげる。下流から上流へ移動しながら、この工程を何回も繰り返し魚を捕る

f:id:takashi213:20200523110024j:plain

この日の練習ではたくさんのイカダバエが捕れた

f:id:takashi213:20200523110051j:plain

長竿の竹の継ぎ目を補強する「口巻き」。漁網を巻いたらガムテープでしっかりと覆う

f:id:takashi213:20200523110134j:plain

春から始まる漁に備えて舟の修理も行う。漁師の仕事に休みはない

【プロフィール】

ひらく・けんたろう 昭和58年生まれ。岐阜市出身。関東の大学でアユの生態について研究する。作家でカヌーイストの野田知佑氏が校長を務める「川の学校」でスタッフとして活動。現在は、金華山の麓でアユ漁を営む他、鵜舟の船頭、自身の漁舟を開放した長良川の体験型エコツアー「結の舟」代表を務める。長良川漁協正組合員。川に学ぶ体験活動協議会会員。水難事故を防ぐための活動にも尽力する。ホームページは「結の舟」で検索。

(新美貴資)

※記事の内容は、2015年1月の取材当時のものです。