里山川海を歩くライターの活動記録

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【新美貴資の『めぐる。〈112〉』】郷土の宝ものを未来に 今の長良川に思うこと

〈2021年10月15日号寄稿〉

短かった夏が終わり、秋がやってきた。秋といえば長良川なのだ。昨年も岐阜市中流域に出かけ、産卵期のアユを観察した。今年もまた通うつもりである。

岐阜市内にかかる長良橋のたもとから長良川の上流を眺めた。緑をたくわえた金華山がそびえ、その頂から岐阜城天守が見下ろす。対岸には漁舟がならび、河道にそって旅館やホテルが連なっている。

近くの瀬には、落ちアユを狙う瀬張り網漁のために川底に打たれた鉄の棒が、流れを横断し等間隔で並んでいる。水面を弾く音でアユを驚かせ滞留させるロープはまだ結ばれていないが、まもなく漁が始まる。そばでは、釣り人が竿を振っている。向こう岸では何をしているのか、川の中に入り潜っている人もいた。

長良川市民学習会から依頼を受けて、同会が発行する『長良川市民学習会ニュースNo.35』(2021年10月1日発行)に寄稿した。同会のホームページにも掲載されるので、興味のある方は読んでみてほしい。

長良川を本来の川の姿に取り戻そうと、有志で活動を続けている同会は、河口堰の試験開門や内ヶ谷ダムの建設中止を訴えている。

2015年12月、「清流長良川の鮎」がFAO(国連食糧農業機関)によって「世界農業遺産」(GIAHS)に認定された。

世界農業遺産は、〈失われつつある伝統的な農法や農業技術をはじめ、生物多様性が守られた土地利用や美しい景観、農業と結びついた文化や芸能などが組み合わさり、ひとつの複合的な農業システムを構成している地域〉を指す(『世界農業遺産』武内和彦著より)。

この遺産は、維持・管理する人たちと一体となったシステムや伝統的な知恵の蓄積を未来に受け継いでいくことが重要であるという。

世界農業遺産「清流長良川の鮎」推進協議会は、〈人の生活、水環境、漁業資源が相互に連関する、世界に誇るべき里川のシステム〉(第二期世界農業遺産保全計画)であると謳っている。しかし、天然遡上のアユやサツキマスは減り、残る職漁師はわずかで、かつてあった循環は失われている。

河口堰が閉まり「マスがおらんようになった」。長年、長良川で魚を捕り続けてきた職漁師の大橋修さんは話す。遺産の認定を受けたのは上中流域であるが、川と海のつながりがあって多様な生命は保たれている。

アユが〈里川の健全性を示すシンボル〉(同計画)であるならば、放流種苗の増産や人工ふ化放流によって資源の減少を補うやり方は明らかにおかしい。

川の維持・管理について、今までのようなトップダウンでは何も変わらないだろう。行政や一部の専門家だけでなく、漁業、遊漁、観光、まちづくり、環境保護などさまざまな形で関わる人たちが対等な立場で話し合い、長良川を未来につなげていくために英知を絞るべきではないか。そこには、川を守る新たな「協同」の仕組みを生む可能性がある。

先人から託されたすばらしい郷土の宝ものを遺物にしないために、できることがあるはずだ。

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長良橋のたもとから金華山を眺める

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