里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】〈おさかなブログ〉愛知県産クロノリの初市

〈『DoChubu』2013年1月2日更新、2020年4月24日加筆修正〉

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愛知県漁連海苔流通センターで開かれた初市でクロノリの品定めをする問屋や商社の担当者

愛知県産のクロノリの初市が2012年12月2日(日)、半田市にある県漁連海苔流通センターで開かれました。初市には、県内知多・三河地区の16漁協から約1700万枚を超えるクロノリが出荷されました。つめかけた200人近くの問屋、商社などの担当者らは、会場を埋めつくす箱に入ったクロノリを手にとり、産地や等級ごとに香りや色、手触りなどを真剣な表情でチェック。品定めの後、電子入札が行われました。

黒くて艶があり、口どけのよいものが好まれるというクロノリ。なかでも愛知産は、「硬くてパリっとしている」(問屋関係者)のが特徴だそう。全国でも上位に入るクロノリの生産県である愛知の伊勢・三河湾には、木曽三川矢作川、豊川など淡水が海水に流れ込むよい漁場が広がっており、昔からノリ養殖が盛んです。

奥の深いクロノリ 

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等級ごとに箱につめて出荷されたたくさんのクロノリ

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一つひとつを手に取って見ると、色や光沢、厚みや香りに違いがあるのがわかります

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火を入れると鮮やかな濃緑に変わり、味や香りも引き立ちます

初市の会場を訪れると、等級に分けられたたくさんのクロノリが産地ごとにならび、入札に参加する問屋、商社、加工会社などの担当者が、一つひとつを手にとって、頭上にかざして色を見たり、顔を近づけて香りをかいだり、口に含んだりして、黙々と品質をチェックしていました。

どれも同じように見えるクロノリですが、手にとってじっと見ると、真っ黒だったり緑がかっていたり、艶のあるものやないもの、厚いものや薄いものなど、それぞれに違いがあるのを確認することができます。品定めをしていた他の方を真似て、会場に設置されていたコンロを使いクロノリに火を入れてあぶり、いろいろな産地のものを食べ比べてみました。

熱を加え鮮やかな濃緑の色に変化したクロノリを口のなかに入れると、それぞれの味や塩気、甘みの濃淡、香りの強弱はより輪郭をはっきりとあらわし、その味わいは見た目以上に広がりがあることがわかりました。

一口に愛知のクロノリといっても、その味覚は産地によって大きく変わります。同じ産地であっても、漁場や養殖・加工方法、収穫時期などによって味わいは異なり、また刻々と変動する水温や塩分といった海の環境から受ける影響も大きく、「一日で色が変わる」(養殖業者)こともあるそう。いろんな要因によって品質が左右されるクロノリはとても繊細で、一つの産地で付けられる等級の数は、多いところでは170にもなるというからびっくり。いったい、この会場のなかにどれだけの数の味わいがあるのでしょう。記者の想像をはるかに超えたクロノリのあまりの奥の深さに、頭のなかがしばらく混乱し、驚きでいっぱいの時間が過ぎていきました。

おにぎりや寿司に巻かれたり、ラーメンの上にのっているクロノリも、きっと生産者が真冬の冷たい海で大変な思いをして収穫したものであるはず。入札にかけられたクロノリは、目利き力に富んだ問屋や商社などによって用途に合わせた仕分けや加工が行われ、小売店や飲食店を通して私たちのもとへと届きます。

多くの人々の労力があって口にすることができるクロノリ。今日目にした光景やこれまでの産地での取材を改めて思いおこし、一枚を大切に噛みしめ味わいたいと思いました。県漁連でのクロノリの入札は、摘み取りの終わる4月頃まで続きます。

(新美貴資)

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