里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(76)」〉地元に愛される店をつくる 「うなぎ三代目魚梅」店長 高岡玲士さん

〈『日本養殖新聞』2018年10月15日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

今年7月、三重県津市の一身田(いっしんでん)地区にウナギ料理の店が開業した。「うなぎ三代目魚梅(うおうめ)」。近鉄「津駅」から二つ目の「高田本山(たかだほんざん)駅」で降り、歩いて10分くらいのところにある。道沿いに民家が並び田んぼが広がる郊外に、新しいウナギののぼりが立つ。

愛知県名古屋市中川区で長年営業し、3年前に惜しまれつつ閉店した、焼き魚の専門店「魚梅」。三代目魚梅の社長で、津市内で居酒屋を経営する神田茂樹さんが、魚梅の店主と知り合いであったことから、店の名前と蒲焼きのたれを譲り受けた。

調理を担当するのは、店長の高岡玲士さん(29)。メニューは、うな丼やうな重、ひつまぶしをはじめ、ウナギのとろろがけ丼や松阪牛を使った「うな松牛丼」、白焼きのからし酢みそなど。うな丼やうざくにサラダや吸い物、デザート、コーヒーなどがついたレディースセットの他、ランチセットでもウナギが味わえる。ウナギ以外にも、つまみものや串もの、天ぷらなど、居酒屋としても利用できる料理が豊富にそろう。

 神田さんと顔見知りだった高岡さんは、その縁から声をかけてもらい、この店で働くことに。準備期間が短い慌ただしいなか、開店にこぎつけた。「どうやってお客さんを呼ぶか。オープンしてからはずっと試行錯誤です」。料理の価格設定や店の宣伝、ウナギを使った新たな料理の考案など、悩み考える日々が続く。

 高岡さんは津市で生まれ育った。高校生になり、市内のウナギ店でアルバイトをしていた同級生に誘われ、一緒に働くようになる。卒業後、そのままこの店に就職してウナギの調理を習い、13年間勤めて腕を磨いた。「料理は好きで興味がありましたが、ウナギの割きは一番苦労しました」と、これまでの修業時代を振り返る。

経験と技術を要する焼きの工程にも気を配る。割いたウナギは串を打たず、網にのせて焼く。ウナギの旨みがたっぷりと入った魚梅の濃厚なたれは、名古屋では二度漬けし蒲焼きにしていたが、地元の客が食べやすいようあっさりした味わいの一度漬けに変えた。

養殖ウナギの質は時期によって変わり、個体差もあることから、一匹一匹の状態に合わせて焼きあげる。高岡さんは、太いサイズのウナギを使い、「皮がかりっとして中がふわっと」した蒲焼きを追求する。

 「これまでの経験を活かして、地元のいろいろな催しにもできる限り参加したい」。高岡さんの地域を元気にしたいという思いを受け、神田さんも背中を押してくれるという。9月末まで一身田商工振興会が開いていた「一身田寺内町観光デー」には、地元の多くの店とともに協力した。人びとの信仰を集め、地区の名所にもなっている高田本山専修寺(せんじゅじ)の御影堂(みえいどう)と如来堂(にょらいどう)が、昨年国宝に指定される。これを記念しつくられたメダルを購入した客に「うな茶漬け」を振る舞うサービスなどを提供した。

 開店してまだ3ヶ月だが、期待に答えようと奮闘する高岡さんの意気込みが伝わってくる。ウナギが特産の津で、郷土の食文化の継承を担う、新たな店と若き職人の物語が始まった。

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