里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(77)」〉あふれる探究心で食べ歩く フリーライター・山室賢司さん

〈『日本養殖新聞』2018年11月15日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

日本人にとって、ウナギは古来より特別な生き物であったのだと思う。各地には、ウナギにまつわる伝説や「鰻」のついた地名がいくつも残っている。美味なる味わいはもちろんだが、謎の多い生態や人との深い関係についても、いろんな想像をかきたてる。ウナギは人びとを惹きつけてやまない魚なのである。

フリーライターの山室賢司さん(50)もそんなウナギに魅了された一人で、全国各地の専門店を食べ歩き、食文化を探究してきた。これまでに500軒近くのウナギ店を訪れ、運営する「うなぎのぼりブログ」で紹介。さまざまな専門家が記事を発信するサイト「All about」ではウナギガイドとして活躍し、SNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)でウナギの好きな会員が情報を交換したり、集まって交流したりする「うなぎ愛好会」をつくり主宰している。

山室さんは2000年頃より、訪ねたウナギ店の情報を独自の視点も加えて文章にまとめ、ネットで発信してきた。東京都墨田区で生まれ埼玉県で育ち、今も同県で暮らす。ウナギについての最初の思い出は、子どもの頃。焼鳥屋の脇で売られていた蒲焼きの味わいが記憶に残る。本物だと思うウナギと出会ったのは、20代になってから。入った給料を手にし、職場近くの店で食べたところ、そのおいしさが格別で「もっとうまい店があるのではと思った」。「追究したくなる性分」で、それからウナギの食べ歩きが始まる。

 異なるウナギの食文化を持つ関東と関西。そしてその間にある中部、なかでも東海地方はウナギの生産と消費が盛んで独自の食文化を持つことから、山室さんもよく訪れた。「東西の一つの境となるのが天竜川。その上流にあるのが諏訪湖で、ウナギで有名な岡谷の町がある。湖の東は関東、西は関西風に調理法が分かれている」「浜松では蒸したウナギも、地焼きのウナギも味わうことができる。2日間で10軒まわったことも」。食べるだけでなく、時には養鰻場を訪ね、生産者からも話を聞いた。山室さんの旅の話に耳を傾けていると、ウナギとともにいろんな情景が浮かんでくる。

店内で注文したウナギ料理を待つ間は、その店が醸し出す雰囲気をゆっくりと確かめる。よい店には客に対するもてなしがあり、その空気を感じ取ることができるという。着席してからの居心地、店主や女将の料理の出し方や声をかけるタイミングなど、一つひとつの応対が料理を含めたその店の品格をつくる。

「漬物を最初に出すところはいい。料理と一緒に出す店が多いが、先につまんでいて下さいという心遣いを感じる」と山室さん。真心の込もった仕事によっても、客の後味はきっと大きく変わるのだと思う。そして「食べ終わって店を出たときに、よかったと思う店にまた来たい」。その言葉には、作る人たちへの感謝と応援の気持ちがこもる。

ネットによる新たな時代が来ることを予見し、12年間勤めた会社を辞めて独立。以降はライターの他、ホームページ制作や通販アドバイザー、楽曲制作などいくつもの仕事を掛け持ちし、幅広い分野で活動する。なにか面白いことはないか常にアンテナを張り、いろんなところへ行き、人と会う。旅が好きだったことから、英検を受け、旅行業務取扱管理者の国家資格を取得する目標を立てた。山室さんの好奇心と探究心は、とめどもなくあふれでる。ウナギをめぐる旅は、新たな発見や出会いを求めてまだまだ続く。

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