里山川海を歩くライターの活動記録

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【新美貴資の〈めぐる。(132)〉】食文化の一翼を担う ウナギの料理本を読む

〈『日本養殖新聞』2023年6月15日号寄稿〉

ウナギの調理について知りたくて、書かれている本を探していたら面白い一冊を見つけた。柴田書店が1995年に出版した『別冊専門料理 日本料理技術百科第3巻 日本料理の伝統技術 うなぎ 天ぷら ふぐ すっぽん あんこう』である。

ウナギは巻頭から約40ページにわたり掲載されている。江戸焼き、名古屋と大阪の地焼きについて「竹葉亭」「いば昇」「遠州」の各店の職人が調理をし、写真と文章で説明されている。裂き、串打ち、保管、白焼き、つけ焼きなどの作業だけでなく、扱っているウナギの産地や大きさ、使っている道具やたれ、店の立場や火床なども紹介されていて読み応えがある。

さらに東京、大阪、名古屋、京都の10店のうな丼やうな重が掲載されており、地域や店によって異なるウナギ料理の多様な魅力を伝えている。

また、肝すい、う巻き、串焼き、柳川、骨せんべい、うざくなど18種の料理について、職人の指導のもと作り方が解説されていて興味深い。ウナギの調理法についてここまで明かされている本は珍しい。

この本が出版されたのは、今から約30年前になる。現役のウナギ職人が読んだらどう感じるだろうか。店によって独自のやり方があるし、職人の考え方も様々だろう。受け継いで守り伝えていかなければならないもの、理論を突きつめて改良を重ねていかなければならないもの、どちらもあるだろう。そうした逡巡のなかで、出来上がったものがこの丼なのだと想像しながら口に入れると、味わいはより深くなる。

和食のなかでもウナギは揺るぎない基本がある保守的な料理であると思う。しかし、ウナギをはじめ米もしょうゆも炭も扱うものは常に変化しており、対応するためには作り手も進化していかなければならない。養鰻や流通などの発達と時代の趨勢を受けながら年月を蓄積してきたウナギ料理の技術は、現在も日々進歩していると信じたい。

人々は伝統を重んじる。新しいものが必ずしも正しくて良いとは限らない。そうしたなかで試行錯誤しながら進取の息吹を注ぎ、積み重ねることで築いた技と心が文化なのではないか。味とは、生きた人間の証であり、作り手を映しだす鏡なのである。

経験と勘を頼りに腕をふるう職人の領域に踏み込み、その思想や言動を誤りなく解釈し、平易な活字に変換していくことは困難を伴う。作り手と読み手、この両者を上回る熱量を持って取り組まなければ、この本は生まれなかっただろう。制作に取り組んだ編集者たちの心意気を感じる。

この本を出した柴田書店は、食の総合出版社である。食のプロに向けて、役立つ情報やノウハウを提供するのが創業以来の使命であるという。

食文化をつないでいるのは、味の作り手だけではない。出版もまた伝えることでその一翼を担っている。ウナギの料理技術に関する本は、いつの時代からあるのだろうか。その歴史を調べてみたくなった。