里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(61)」〉可能性を探り最上を目指す 「炭火焼うなぎ 魚寅」店主 村井俊之さん

〈『日本養殖新聞』2017年7月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

岐阜県郡上市の水と城の町「郡上八幡」にやってきた。そびえる山城を見上げ、歴史の年輪を感じる城下町を歩く。清らかな長良川と吉田川が合流するこの地域は、人びとの生活のなかに川があり、恵みの水がある。吉田川にかかる新橋から川面をのぞくと、友釣りに興じる釣り師たちの姿が見えた。この地で400年以上にわたり続いてきた「郡上おどり」がいよいよ始まる。一年でもっとも賑わうそのときを前にして、町の様子からはふくらむ期待が伝わってきた。

 吉田川から近い、多くの商家が軒を連ねる新町通。この一角に「炭火焼うなぎ 魚寅」がある。店主の村井俊之さん(42)が提供するウナギ料理の一つに、白焼きをご飯に乗せた人気の「志ら丼」があり、食べようと訪れた。

 丼が運ばれてくると、まずはその見た目を味わう。うすい飴色に焼き上がった繊細な身の表面はさくさくで、口に含むとなかからウナギの旨みがあふれでる。料理に付いてくる上質なワサビは、独特の香りと甘みがあって、さっぱりとした白焼きによく合う。食べる途中で卵黄をくずすと、丼全体にこくととろみが加わり、味わいが濃厚になる。いくつもの食べ方が楽しめる、ぜいたくな一品だ。

 「白焼きは見栄えが大事」と話す村井さんは、炭火を団扇であおがず、静かにていねい志ら丼に乗せるウナギを焼き上げる。この料理は、村井さんの手によってこの5年の間に形を変え、今の姿に落ち着いた。「白焼きを食べやすいよう細かく切って出すようになり、ご飯に専用のだし醤油をかけ、ノリやネギを乗せてみたらおいしかった。だしは卵にも合う。だったら郡上で生産されている良質な卵があるし、ウナギに合わせてみたら最高だったんです」。長い試行錯誤のときをへて、この店でしか食べることができない特別な丼が生まれる。

 魚寅は、郡上にあるウナギ屋の御三家と呼ばれる老舗の一つで、創業は昭和5年。村井さんの祖父が、ウナギや寿司などの日本料理屋を営み、三代目の村井さんが店主になってからは、地元のアユや猪肉も調理するが、よりウナギを中心に料理を提供するようになる。「ウナギを食べるのが好きで、自分がおいしいと思うものをお客さんに出したかったんです」。

焼き場には炭台を作り、ほとんど独学で炭焼きの技術を身につけた。それも「お客さんにおいしいウナギを出したい」という気持ちから。「炭の扱いは難しい。覚えるのに7年くらいかかりました。火を起こすのにも2時間かかる。でも、この手間によっておいしいものができるんです」。

「焼き」はもっとも重要なウナギ調理の工程。使う炭はいろんな産地や銘柄のものを試し、仕入れるウナギの性質(たち)にも神経を配る。「毎日焼いていて面白いし楽しいです」と意欲にあふれる村井さんは、この道に入って約20年になる。「今の焼きにはまだ納得がいかない。いろんな人にも聞きます。日々自問自答ですね」。一杯の丼のなかに、可能性を探り最上を目指す職人の姿が見えた。

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