里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(62)」〉じゃちこすくいで伝統文化を発信 岐阜県関市洞戸の板取川を訪ねる

〈『日本養殖新聞』2017年8月25日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

ウナギの町として知られる岐阜県関市の図書館を訪れた。そこで一枚のチラシを見つける。第1回じゃちこすくい世界選手権大会。手にした紙には、そう書かれてあった。じゃちこ。聞いたことのない言葉だが、この地域ではカワヨシノボリのことをこう呼ぶ。川の浅瀬でたもを持つ子どもの写真から、この魚を捕まえる催しであることはわかった。場所は、板取川の洞戸(ほらど)橋下とある。よくわからないまま、日曜の開催日に行ってみることにした。

大会が開かれる関市の洞戸市場という地区に向かう。JR岐阜駅から1時間ほどバスに乗り、終着の停留所「ほらどキウイプラザ」で降りる。目の前を板取川が流れ、歩いてすぐのところに洞戸橋がかかる。橋の下に着くと、地元の人たちが準備で忙しく動き回り、ウォーターシューズに短パン姿の親子が何組かすでに集まっていた。

この催しを企画したのは「ほらど未来まちづくり委員会誇りの部会」の同大会実行委員会で、板取川上流漁協の協力によって実施された。関、美濃市をへて長良川と合流する板取川は、釣りや川遊びを楽しむことができ、夏場は多くの観光客でにぎわう。最近では、洞戸より上流域の板取地区にある名もなき池が、澄んだ湧水に咲くスイレンの花の美しさから「モネの池」と呼ばれ、注目を集めている。

大会の開催にあたり、実行委員会の後藤信幸さんが挨拶し、催しの内容やじゃちこの生態について説明した。参加者は、岐阜県内と愛知からやってきた親子ら23名で、主催者が用意したたもと箱メガネを受け取り、じゃちこの捕り方についてレクチャーを受ける。じゃちこすくいは、昔から行われてきた伝統漁法で、たもは手作り。網は、店で売られている枝豆などが入った緑色の袋を再利用したもので、柄のついた直径10センチほどの輪につけてある。

 流れのゆるやかな板取川は、底の石がくっきりと見えるくらい透き通っていた。このあたりは、もっとも深いところでも大人のひざ上くらいまでで、子どもたちも自由に歩きまわり、生き物を探す。

 大会では、小学生と一般の部に分かれ、3分間で何匹のじゃちこを捕まえることができるかを競う。競技が始まった。大人も子どもも夢中で川のなかをのぞく。3センチくらいの魚を見つけるのに最初は苦労するが、だんだん目が慣れてくると、あちこちから「いた」「捕れた」と声があがる。「がんばって」。女の子が父親に声援を送る。若い母親もたもをにぎりじゃちこを探す。見ていると、大人たちのほうが真剣なくらいで、ここにいる全員が川ガキになった。

全くすくうことのできない参加者がいるなかで、7匹も捕った父親がいた。もっとも多く捕まえた子どもと大人には、それぞれに賞状とじゃちこマイスターの称号が贈られた。その後はみんなで川に入り小さな魚を追う。捕まえたじゃちこは唐揚げにし、焚き火で暖をとりながら参加者で味わった。地元の人たちが調理した魚は、あっという間に子どもたちの胃袋におさまる。自分たちが捕った魚の味は、格別なのだ。

美濃の山里で行われた初めての催し。そこには川を通したいくつもの出会いと交わりがあった。

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