〈『DoChubu』2012年9月25日更新、2020年4月23日加筆修正〉
味がよくて煮てもくずれない。もちもちとした食感が人気の「円空さといも」は、岐阜県の中濃地域で栽培されている特産品です。この農産物を地域ブランドとして広く売り出そうと、地元の農協をはじめ、生産者団体、商工会、行政などによる連携した取り組みが進んでいます。
今回は、この円空さといものピーアールに力を入れているめぐみの農業協同組合(JAめぐみの)を訪れ、その特長や栽培方法、ブランド化に向けた動きなどについてうかがいました。
栽培はつらく大変な作業
JAめぐみのでは、中濃地域本部営農経済部長の那須寧さん、同部マネージャー・課長の林和彦さんから話をうかがいました。
円空さといもは、愛知県から導入した「八名丸」という品種を系統選別して栽培したもの。煮てもくずれることがなく、「味がよくて食感がもちもちしている」ことから長らく人気を集めてきました。
この特色ある農産物を、地域の新たな特産品として売り出そうと、この地にゆかりのある円空上人から円空さといもと名づけ、昨年12月にはJAめぐみの、中濃里芋生産組合、関市、美濃市、商工会議所、飲食業組合などが参加する「円空さといも産地振興プロジェクト推進委員会」が発足。知名度のアップに向けて農商工が連携し、市内の飲食店でももっと食べてもらおうと普及を図っています。
毎年11月から収穫シーズンに入る円空さといも。JAめぐみのの近くにも畑があるというので見せていただくことに。広がる畑には、まだ小さいながらも同じぐらいの背丈をした、円空さといもの特長であるハートのような形をした葉がずらりとならんで、すくすくと元気に育っていました。
夏の暑い時期の除草は、農家にとっては大変な作業で、林さんは「草との戦い」だと説明します。種いもを植えて育てると、親いも、子いも、孫いもが、その上に順番についてくるのですが、その際には、「土寄せ」といって、そのつど土をかぶせておかなければなりません。太陽の光にあたってしまうと、色が青くなってしまい、商品価値が失われてしまうのです。
寒い時期の収穫は、土を掘り起こして一つひとつをもいで取る、とてもつらい手作業。イモについた土をはらうのも、「粘土質だと落とすのが大変」。収穫したものは、そのまま置いておくと霜がしみて品質が悪くなってしまうので、寄せて集め土をかぶせ、出荷の際にまた掘り出すのだそうです。
円空さといもの栽培は、春の種いもの植え付けから冬の収穫まで、大変な労力を要します。現在、JAめぐみの地域で円空さといもを栽培している農家は約40名。中濃地域でも農家の高齢化は深刻で、後継者の不足が問題となっています。「これから需要が増えれば、つくる量も増やさないと」。JAめぐみのでは、大型のサトイモ選別機を導入するなど、つくり手に重くのしかかる負担の軽減を図っていますが、一方で円空さといもの生産をどう伸ばしていくか。これからの課題です。
地元での普及を図る
地元では、これまで注目を集めるような農産物がほとんどなかったとのことで、円空さといもに寄せる生産者の期待は大きく、JAめぐみのでは食材として使った名物「円空汁」をイベントでふるまうなど、ピーアールを行ってきました。
那須さんは、「これまでの取り組みから評価を上げるような流れはできた」と言葉に自信をこめます。委員会では、生産・出荷方法の改善のほか、新たな食べ方などについても研究中。一般から調理法をつのる、食品コンテストの開催も計画しています。
「市場での評価はよく、ひきあいもある」という円空さといもですが、現在の出荷先は9割以上が名古屋で市内への出荷はわずか。農商工が一体となって地元での消費の普及、生産の拡大を図り、この円空さといもをさらに魅力のある特産品に磨くことで、地域に新たな活力を呼び込むことが期待されます。(新美貴資)