里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】身から骨までアジを丸ごと調理!第53回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2012年10月3日更新、2020年4月23日加筆修正〉

伊勢・三河湾で獲れる旬の魚介類を調理して味わう、なごや環境大学の人気の講座「味わって知る わたしたちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の今年度(2012年)第2回が2012年6月14日(木)、名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。

今回のテーマは、「アジをまるごと食べる!&テングサからトコロテンをつくろう!」で、一般から約20名が参加。マアジを使った漁師丼や骨せんべい、アラからだしをとった味噌汁のほか、海藻のテングサ類からトコロテンもつくり全員で味わいました。マアジは、活きたものと当日未明に締めたものの2種類が用意され、味や食感の違いを確かめる食べ比べも行われました。

講師には記者がまねかれ、たくさんあるアジの種類なかでももっともポピュラーなマアジについて、生態や漁法、全国各地の食べ方など、漁業関係者らから聞き取り、調べた内容をまとめて報告。またワカメ(鳥羽市答志島)、アカモク常滑市)、アサリ(西尾市)など、伊勢・三河湾で獲れる海の幸について、行われている漁の写真を紹介しながら説明しました。

鮮度の異なるマアジを調理

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答志島の周辺で漁獲された活きたマアジが用意されました

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当日未明に締められたマアジも鮮度がよく魚体が輝いていました

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乾燥したテングサを使ってトコロテンもつくりました

スーパーマーケットや魚屋で目にすることの多い、人気のある魚のマアジ。刺身はもちろん、焼いたり揚げたり干物で味わったりと、さまざまな食べ方を楽しむことができることから、家庭でも食卓にあがる機会の多い魚では。そんな魚をまるごと使って、今回はいったいどんな料理ができるのでしょう。もう一つの、ツルンとしたのどごしが心地よいトコロテンは、食欲が減退する暑い時期にぴったり。テングサからつくる体験はなかなかできないだけに、こちらもどのように調理が進んでいくのか楽しみです。

マアジは三重県鳥羽市の地先にうかぶ答志島で揚がったもの。用意されたのは、活きたものと締めてあるものの2つの種類で、締めてあるものは当日の午前3時半ごろに神経抜きがほどこされています。活きたマアジは、この場ですぐに締めて調理に使います。

2種類の魚はどちらも新鮮そのものなのですが、両者には締めてから7時間ぐらいの差があり、時間とともに劣化していく鮮度にははっきりとした違いが生じています。この鮮度の異なるマアジを食べ比べて、どんな違いがあるのか確認してみようというのが、今回の重要な学習の一つになります。いったいどんな結果になるのか。興味はどんどんふくらんでいくのでした。

面白いトコロテンづくり

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(左)皮をひいて3枚におろされたマアジ。(右)テングサはとろみがつくまで煮込んでいきます

スタッフの説明を受けた後、参加者はそれぞれのグループに分かれて調理を開始しました。30センチぐらいある立派なマアジは、体の表面を走る硬いゼイゴを切り取り、ウロコを除いて頭を落とします。続いて、包丁をお腹から肛門まで入れて開き、内臓を取り出します。流水でよごれをしっかり洗い流したあとは、包丁を中骨にそって動かし、身をおろしていくのです。おろした身は、ついている腹骨を忘れずに切り出してから、キッチンペーパーですべらないよう皮をつかみ、ゆっくりと身からはがしていきます。

「アジはよくさばきますよ」。近くのテーブルで包丁をにぎり、テンポよく調理を進める年輩の女性が笑顔を浮かべて話します。会場を見渡すと、参加者の多くは手馴れた様子でどんどん作業を進めていきます。「いつもは切り身しか買わない」という人もなかにはいて、同じグループの仲間から教えてもらい、言葉を交わしながら3枚におろしていく光景も見られます。こうしておろしたマアジの身は薄切りにし、しょうゆやみりん、酒などを混ぜてつくったダシをつくり、釜揚げシラスや生卵、白ごま、大葉などの薬味を用意して漁師丼に仕上げていきます。

マアジをさばいて残った頭や腹骨の部分などは、洗って水気をとり、塩をふってしばらく寝かせます。沸騰したお湯にかるく通して臭みをのぞいたら、鍋に水と一緒にいれて煮込み、骨のダシをいかした味噌汁に。もちろん中骨も無駄なく利用します。中骨を濃い目の塩水にしばらくひたしたあと、よく水気をふいて、熱した油でカラっと揚げる骨せんべいを、スタッフのみなさんがつくってくれました。

まるで魔法を使ったかのような、できあがりの固まる場面が面白いトコロテンづくり。この講座でも過去に行っていて記者も記憶しているのですが、何度目にしても飽きることがありません。

つくり方は、たっぷり水を入れた鍋にテングサを投入。沸騰したら酢を適量いれて、とろみがつくまで煮込んでいきます。溶けたテングサをこしたものをバットに入れ、しばらく冷やして置いておくと、いつの間にか固まってしまうから不思議です。海藻の色をわずかに残した、弾力のある透明な固体を適当な大きさに切って、木製のところてん突きに入れたら、棒で一気に押し出します。すると、金網の目から細長く切れた、ぴかぴかに輝くトコロテンがにゅるりと顔をあらわして、皿の上を気持ちよく滑ります。トコロテンづくりでもっとも盛り上がる、とても楽しい瞬間です。

鮮度の違いを食べ比べて実感

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できあがったばかりのトコロテン

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香ばしいにおいが食欲をそそるマアジの骨せんべい

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今回味わったマアジの漁師丼、味噌汁、トコロテン

調理ができあがると、楽しみにしていた食事の時間です。どれからいただこうか迷いながらも、さっそく料理へとはしを伸ばしました。まずはマアジの漁師丼。やや肉厚に切られたマアジの刺身は弾力があって、ボリューム感も十分。魚肉にしょうゆや酒でつくったダシがよくからんでいて、ご飯にあいます。ご飯のうえにかぶせてある釜揚げシラスの風味も広がり、口のなかは海の幸があふれる重層的な味わい。そこに薬味がアクセントとなって、素材の味をさらにおいしく引き立てます。

アラのだしがよくでた味噌汁をすすると、思わず脱力してふーっと息をはく。海産物のもつ特有のうま味が五臓六腑にしみわたるようです。パリっと仕上がった骨せんべいは香ばしく、ポリポリとした軽い食感からスナック感覚で味わえます。最後に残しておいた、酢じょうゆをかけたところてんが、夢中でほうばり続けて汗ばむ体に涼しさを運んでくれました。

多くの参加者が関心を示していた、鮮度の異なるマアジの食べ比べ。「魚は一晩寝かせるとうま味がまわる」との水産関係者の言葉を聞いたことがありますが、活きていたものは、コリコリとした歯ごたえが強く、味はあっさり。それより7時間ほど前に締めたものは、食感に適度な弾力があり、味には魚肉のうま味が感じられました。

どちらがおいしいかは、それぞれの好みによって分かれますが、鮮度の違いによって味や食感が大きく変わるということは、参加したみなさんも口にして実感できたようです。締めた時間を念頭に入れて、自分の好みの頃合に味わえるよう調理するのも、魚食の奥の深さであり楽しみと言えそうです。

食後には、記者がマアジについて、その生態や多様な食べ方、全国にあるブランドなどについて調べた内容を説明。地元の伊勢・三河湾で獲れるものについても、漁師や研究者などの関係者から聞き取りした結果を報告しました。

伊勢・三河湾とその周辺におけるマアジの生態は、詳しいことはわかっていませんが、産卵は湾の外で行われ、湾の中でふ化した稚魚がプランクトンを食べて成長しているそうです。湾内では、夏から秋にかけて豆アジ(約3センチ)、小アジ(約10センチ)がよく獲れます。エサの豊富な湾の中で育ち、冬場に大きくなると湾外の外海へでることから、湾の内外を行き来して一生を送っているようです。

このような魚はマアジだけでなく、マダイやトラフグ、クルマエビも、湾内で小さなうちを過ごし、一定の期間を経て大きく育つと外海へ旅立っていきます。このことから、伊勢・三河湾は多くの稚魚が生まれて育つ、育成場になっていることが理解できます。

このマアジの生活史を見ても、地元の海の存在がとても大きく、成長において欠かせない場になっていることがわかります。多くの生命を育んでいる伊勢・三河湾。身近な海の環境を守り、多様な生態系を維持していくことが、わたしたちの豊かな食を守ることにもつながります。わたしたちにとって、伊勢・三河湾はけっして遠いものではなく、近い存在として毎日の生活とも太くむすばれているのです。(新美貴資)

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