里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】伊勢・三河湾で獲れた旬のコウナゴを調理!第44回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2011年6月5日更新、2020年4月21日加筆修正〉

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今回の調理で使われたコウナゴ。伊勢・三河湾はコウナゴが獲れる全国でも有数の漁場です

伊勢・三河湾およびその流域で獲れる魚介類を調理して味わう、なごや環境大学の講座「味わって知る わたしたちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の今年度(2011年)第1回目が2011年5月12日(木)、名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。

今回のテーマは、「マリンエコラベル認証を受けた愛知県のイカナゴ漁」。一般から約30人が参加し、愛知県南知多町であがった魚介類を使って、小女子かき揚げ丼、シラスの吸い物、タイラギの刺身などを調理して味わいました。また、講師の県水産試験場主任研究員の鵜嵜直文さんからは、県内で獲れるコウナゴについて、漁から加工、消費の動向まで詳しく話をうかがいました。

身近な魚のコウナゴ、シラス

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平べったい大きな貝殻をもつタイラギ(左)とシラスの釜揚げ(右)

コウナゴ、シラスは、ともに伊勢・三河湾では春から獲れる魚で、年によって違いはありますが、コウナゴは3月から5月頃まで獲れます。コウナゴ漁が終わるとシラスが獲れ始め、夏から秋にかけて、愛知県では南知多町碧南市田原市などで水揚げされ、加工も盛んに行われています。

コウナゴは、イカナゴと呼ばれる魚の小さいもので、釜揚げやチリメン、佃煮などに加工され、食べられている魚です。シラスは、カタクチイワシやマイワシなどの稚魚のことを言い、こちらもコウナゴと同じように産地でさまざまな製品に加工され、スーパーや魚屋に並びます。三角形の大きな貝殻をもつタイラギも伊勢・三河湾では漁獲され、主な食用部分となる貝柱は独特な食感が人気です。

今回はこれらの食材を使って、さまざまな料理に挑戦しました。

初めてのタイラギに驚き

今回つくった料理は、小女子かき揚げ丼、シラスの吸い物、タイラギの刺身など。たくさんの海の幸が目の前にならび、参加者のみなさんは調理の開始が待ちきれない様子です。最初に行ったのは、タイラギの調理。ナイフを使って貝殻を開き、中身を貝柱、ヒモ、内蔵などに分けます。貝柱は刺身、ヒモは天ぷらの具材として使います。

みなさん一人一個、大きなタイラギを手にして、早速調理に挑戦しました。タイラギの貝殻を見るのは初めてという女性の参加者。「思ったより簡単にできました」と、上手に開かれた貝を笑顔で見せてくれました。

わたしもナイフを手にとって、貝殻を開いてみました。貝のとがったほうの切れ目にナイフを差し込み、口にそってゆっくり動かすと、貝が少し開き、その後は楽に包丁を入れて開けることができました。タイラギの貝柱は、やわらかな形が崩れないよう注意しながら包丁で少し厚めに切って、貝殻の皿の上に盛りつけました。

参加したみなさん、タイラギの調理はほとんどの方が初めて。とても楽しんで調理している様子が、にぎやかな会話を通してあちこちからうかがえました。

コウナゴのかき揚げは、乾燥したちりめんのコウナゴと刻んだネギに天ぷら粉をまぶし、熱したサラダ油の上にゆっくりと滑らせて、こんがりと揚げていきます。揚がった天ぷらは、温めた天つゆにくぐらせて熱々のご飯の上へ。その上からタレを適量かければできあがりです。シラスの吸い物は、釜揚げシラスにワカメ、ネギ、さらに茹でたシャコの身をお椀に入れ、しょうゆ、塩、酒で味を調えただし汁を注げば完成です。

それぞれの厨房で調理が進み、できあがった料理が並べられていくと、会場はさらににぎやかになり、活気であふれます。

全員で旬を味わう

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この日のメニュー。小女子かき揚げ丼、シラスの吸い物、タイラギの刺身、 タイラギのヒモ・ツルナの天ぷら、コウナゴのクギ煮

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(左)小女子かき揚げ丼。コウナゴの独特な苦味と香ばしさがかき揚げにしても良くあいます。(右)タイラギの刺身。コリコリした食感とクセのない上品な甘みが味わえます

楽しみにしていた料理が完成し、参加者全員でいただきました。コウナゴのかき揚げは、サクッとした歯ごたえで、香ばしさが口の中いっぱいに広がります。コウナゴの若干苦みのある独特な味が、かき揚げにもよく合います。タイラギのヒモの天ぷらは、フワフワに揚がっていて、口に入れると弾力のあるやわらかい歯ごたえが楽しめました。タイラギの刺身は、コリコリした食感とクセのない甘みがたまらず、あっという間に全部いただいてしまいました。シラスの吸い物も、シラスの塩気がダシとよく合っていて、吸い物の具材としてもぴったりでした。

調理後に全員で食べながら交わす会話も、この講座の楽しみの一つです。一つひとつの料理の感想はもちろん、この日の調理を振り返ったり、食材や普段つくる料理のことなどについて意見や情報を交換したりと、話題は尽きません。

安全・安心な伊勢・三河湾のコウナゴ

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講師を務めた県水産試験場主任研究員の鵜嵜直文さん

その後、講師の県水産試験場主任研究員・鵜嵜直文さんが、伊勢・三河湾で獲れるコウナゴについて、その生態、行われている漁業や加工、消費の動向などについて説明しました。コウナゴはイカナゴという魚の稚魚のことを指します。鵜嵜さんによると、伊勢湾で獲れるコウナゴの9割がチリメン製品に加工されているそうです。チリメン製品のサイズより大きなものは、くぎ煮にも加工されますが、多くは養殖用の餌として使われています。伊勢・三河湾は、瀬戸内海、東北・常磐沖と並ぶイカナゴの三大漁場の一つで、とても重要な漁場なのだそうです。

コウナゴは船びき網という漁業によって獲られています。その年に魚をたくさん獲りすぎてしまうと翌年獲れなくなってしまうので、漁業者は様々な資源管理に取り組んでいます。その柱が、親魚の保護、解禁日決定、終漁日決定の3つです。研究者の調査報告を受けながら、資源を守り持続的に利用する取り組みを続けて30年。「1980年前後のような長期的な不漁がなくなり、資源管理の効果が表れている」と鵜嵜さんは話します。

また、昨年(2010年)3月には、愛知県イカナゴ漁業がマリン・エコラベル・ジャパンの認証を取得しました。これは、水産資源や海の環境にやさしい漁業を、消費者がラベルのついた製品を買うことで直接応援することができる海のエコラベル制度の一つです。今、世界では海のエコラベルが広がっており、マリン・エコラベルも日本で取り組みが進められています。鵜嵜さんは「買う側にとっても、資源管理によって水産物が安定供給され、お値打ちで買えるのはメリット。資源管理に一生懸命な漁業者を応援してください」と呼びかけました。

また、東日本大地震による福島原発事故の影響で、常磐沖で試験採取されたコウナゴから暫定規制値を上回る放射性物質が検出され、各地で風評の被害が懸念されていますが、伊勢・三河湾のコウナゴは東日本の海域との行き来がなく、また海流も南から流れ込む黒潮の影響を受けていることから、汚染の心配は全くないと話し、安全・安心であることを強調しました。

今回もコウナゴ、シラス、タイラギと、とても豪華な海の幸が並びました。毎回新たな発見に出会うことができるこの講座。調理したり味わったりするなかで、今回もたくさんの驚きがありました。ただ味わうだけではなく、自分たちで作ることができるのは大きな魅力です。様々な魚介類を目にして触わり、さばくことで、海や産地の様子、そこで汗を流す生産者にも思いをはせることができ、自然の恵み、そして関わっている人々への感謝の気持ちが生まれます。

次回はどんな魚が登場し、どんな料理で味わうことができるのか。いまからとても楽しみです。(新美貴資)

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