〈『DoChubu』2011年6月22日更新、2020年4月21日加筆修正〉
太平洋と伊勢・三河湾に囲まれた愛知県の渥美半島にある田原市。温暖な気候から農業が盛んで、多くの野菜や果物が生産されています。ここで地産地消にこだわり、安全・安心なハチミツをつくり続けている養蜂園を紹介します。
安全・安心な天然のハチミツにこだわる
まわりには田畑が広がり、ところどころに雑木林や農家が点在する、のんびりした雰囲気のなかにある鈴木養蜂園。お店で応対してくれたのは、鈴木良近さんと奥さんの真由美さんです。同園は、良近さんのお父さんが1974年に趣味から養蜂を始めて事業を本格化。現在はお父さん、お兄さんと一緒に3人で養蜂を営んでいます。忙しい時期はお母さんも手伝うそうで、お店のほうは真由美さんが中心となって運営しています。
元々は、メロンやスイカなどの栽培農家に花粉交配用のミツバチを貸出・販売する仕事が主でしたが、「子供たちに安全・安心な天然のハチミツを食べさせたい」との思いから、ハチミツの採集にも徐々に力を入れるようになったそうです。地元での直接販売にも力を入れようと、5年ほど前に作業場を改築してお店もオープン。地域の方はもちろん、休日には観光で通りかかった他県からのお客も寄ってくれたりと、お店を通じた交流の輪も広がっているそうです。
同園のハチミツは、渥美半島で咲いている花の蜜を採集してろ過し、そのままビンに詰めたもの。余計なものが一切入っていない、純粋な地元産のハチミツにこだわり、つくり続けています。渥美半島で特においしいハチミツができるのは、クロガネモチ、菜の花、ミカンの3つの花からだそう。
同園ではこの3種類のハチミツを中心に製造・販売しています。4年ほど前からは、県内で開かれる食のイベントにも出店し、自家製のハチミツ製品を消費者にアピールしています。もっと直接販売に力を入れていきたいという真由美さんは、「渥美半島でとれるハチミツをたくさんの人に知ってほしいです」と目を輝かせて話してくれました。
花によって味、香り、色も違う
ハチミツについて、「花によって味、香り、色も違うんです」と話す良近さん。「花の種類だけハチミツの種類がある。同じ花でも場所が違うと味も変わるんですよ」と、ハチミツの奥の深さについて教えてくれました。
花、ミツバチ、天候。この3つの条件がうまくそろわないと、良質なハチミツは採れないそうです。ミツバチによって花から集められた蜜は、その体内で特殊な酵素が加わりハチミツとなります。花とミツバチ、そこに養蜂家の手が入ることによってつくられるハチミツは、自然からもたらされる大きな恵みの一つです。
一つひとつの作業が機械化できない養蜂の仕事は、人手が頼り。決して楽ではありません。ちょうどうかがった5月は、ハチミツの採集、ミツバチの貸出・販売など一年でもっとも忙しい時期。良近さんも、朝早くから夜遅くまで作業に追われる毎日なのだそうです。
何年やっても勉強。ミツバチと会話できるように
保有する養蜂場の一つがお店の裏にあり、良近さんに案内してもらいました。たくさん並ぶ巣箱に近づくと、ミツバチの羽音がブンブンと聞こえ、何匹かが様子をうかがうように絶えず近寄ってきます。ミツバチが人を刺すことはめったにないそうですが、念のため頭から帽子、さらに面布をかぶり、巣箱に近づいて中を見せてもらいました。巣箱の中を開けてもらうと、数え切れないほどのたくさんのミツバチが。その足元には、黄金色の目にもまぶしいハチミツがたっぷりと蓄えられていました。
これだけたくさんのミツバチに近づいたのは初めての体験です。怖いという感覚はなく、もっと巣箱をのぞいていたいという好奇心がむくむくとわいて、一生懸命に働くミツバチに親しみを感じました。見れば見るほど面白い。生き物の不思議な世界が小さな巣箱の中にはありました。
「何年やっても勉強。これという教科書はないです」と、養蜂の難しさについて語る良近さん。ミツバチと接する時は、「会話できるように。この子たちがどうしてほしいのか。どういう状態かわかるよう」いつも心がけているそうです。良質なハチミツを提供できるよう、天候、ミツバチの状態から巣箱の管理まで常に気を配り、さらにより良い養蜂の確立に向けて試行錯誤を続けています。
年間に採集できるハチミツは量が限られているため、販売は地元が中心。地産地消にもこだわっています。安全・安心で純粋な地元産のハチミツをつくり続けている鈴木養蜂園。渥美半島で採れた極上のハチミツをぜひ味わってみてください。(新美貴資)