里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】〈おさかなブログ〉南知多・師崎のコウナゴ

〈『DoChubu』2012年4月11日更新、2020年4月22日加筆修正〉

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春の訪れを告げるコウナゴの水揚げが始まると伊勢・三河湾の浜は活気づきます

今期(2012年)は3月8日(木)に解禁となった、愛知・三重の両県で行われる伊勢・三河湾でのコウナゴ(イカナゴ)漁。春の訪れを告げる魚を見ようと、愛知県南知多町の師崎漁港を訪れました。

師崎は、長くのびた知多半島のもっとも先にある漁師町。頭上には晴れ渡る青い空がひろがり、陽が高くのぼり始めると、肌寒かった空気にも温もりが伝わってきます。一年をめぐり、再びやってきたこのとき。前日からそわそわしてなんだか落ち着かない、はやる気持ちをおさえて、水揚げされたばかりのコウナゴを見ようと、漁港へ急ぎました。

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運搬船からベルトコンベヤーで運ばれてくるコウナゴ。漁獲物を満載した運搬船が漁港に続々ともどってきます

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浜の女性たちが忙しく働く漁港の荷さばき場。どんどん運ばれてくるコウナゴのかごを待ち受け、協力して積み上げていきます

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漁港のちかくでは乾燥ワカメをつくる作業が行われていました

午前10時をすぎたころ漁港に到着。荷さばき場の一角は、体長3、4センチほどの、コウナゴがどっさり入ったかごの山が占め、多くの男女が忙しく動きまわり働いていました。

すでに入札は始まっていて、取引に参加する仲買人らが積み上げられたコウナゴのカゴを囲み、真剣な表情でサイズや色合いなどを吟味しています。コウナゴは、2隻の漁船で網をひく「船びき網」という漁法で漁獲されます。

漁場からは、魚を満載した運搬船が次々にもどって水揚げ。運搬船からベルトコンベヤーで絶え間なく流れてくるかごを、待ち構える浜の女性たちが受け取り、協力して荷さばき場のなかへ積んでいきます。漁港内は、水揚げを待つ船で渋滞気味。荷をおろすとすぐに船首をかえし、再び漁場へと急行します。落札されたコウナゴは、そばで待機するトラックに急いで運びこまれ、加工場に移されます。鮮度の落ちるのが早いこの魚。水揚げからは時間との勝負が続きます。

人々のしゃべる声がひびきわたる荷さばき場はとてもにぎやか。朝の8時すぎから始まったという水揚げの作業に「忙しくなってくれないと」。そう語る浜のお母さんは、次々と運ばれてくるコウナゴを前に、期待をこめた笑みをうかべます。

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天日に干されていくコウナゴ。あたりには潮の香りがただよいます

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天日に干すことでさらにうまみが増し、色つやが良くなるそうです

漁港にいた加工業者の方にうかがうと、コウナゴは小さくて、サイズのそろったものが良いそう。乾きが早く、製品の仕上がりにばらつきがでないのだとか。脂がのりすぎているのも、加工した後の味の劣化が進みやすいため、あまり向きません。漁獲されるコウナゴの色合いも、青味があったり赤味があったりといろいろ。摂っているエサや漁場、時間帯などによって異なるというから、その複雑さには驚いてしまいます。

「つくだ煮や釜揚げ、干して食べるのが普通。野菜と一緒にかき揚げにするのもおすすめ」と、うまい食べ方を、忙しい作業の合間に年輩の女性が教えてくれました。獲れたコウナゴは、周辺の加工場で釜揚げや干したちりめん、つくだ煮にされ、出荷されます。

漁港を後にし、漁師町のなかをぶらぶら歩いていると、どこからかたまりの濃厚な香りが。そのあともあちこちから漂ってくる、コウナゴを炊きあげるにおいに誘われ、漁港の周辺をしばらく歩き続けました。

以前にもうかがった、地元で干物やちりめんを製造・販売する「マル伊商店」をおとずれ、天日に干す作業を見せてもらうことに。干し場では、今朝獲れたばかりの、うま味をぎゅっと凝縮したような風味ゆたかなコウナゴが一面にひろがり、かぐわしい潮の香りを放っていました。この日は、浜のいたるところでこうした光景を目にしました。

春の訪れを海からの恵みで実感する。浜にわきあがる活気を五感で満喫することができた、とても贅沢な一日でした。

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マル伊商店の新物のコウナゴのつくだ煮。炊きあがったばかりのものはとてもやわらか。コウナゴのうまみと甘からい味付けでご飯がどんどん進みます

(新美貴資)

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