里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】〈犬山市特集〉犬山の名物・自然薯「夢とろろ」を使ったドーナツやうどんを製造・販売する「自然薯工房くいもんや源」

〈『DoChubu』2012年10月20日更新、2020年4月23日加筆修正〉

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「自然薯工房くいもんや源」が製造・販売するドーナツやうどんなどの製品

愛知県の北端にあって、城下町として古くからの歴史と文化が息づく犬山市。県下有数の観光地にしては地元の特産が少ないともいわれる同市ですが、この地で生産が盛んな自然薯(じねんじょ)を使って、市内の飲食店が製造するドーナツやうどんがいま大人気。地元を代表する新たな名物として、多くの関係者の期待を集めています。

今回は、犬山の名産である自然薯「夢とろろ」を加工して、さまざまな製品をつくっている「自然薯工房くいもんや源」を訪れ、これまでの取り組みや今後の展開などについて聞きました。

地元の食文化の発展へ

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「自然薯工房くいもんや源」の代表取締役・林泉さん

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人気の「じねんじょ夢とろろドーナツ」。写真は大豆きなこ。同封されているパウダーをたっぷりかけていただきます

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きめの細やかな食感が特長の自然薯を使ったラスク

自然薯とは、もともとは山地に自生しているヤマノイモのこと。現在、犬山をふくむ愛知県内で生産されている品種は、自然にあった自然薯を交配し、選抜したもので、開発した県農業試験場が「夢とろろ」と名づけ、広く栽培されています。

犬山市内の前原地区でレストラン「くいもんや源」を経営する林泉さん。地元で生産された自然薯を使い、数々のヒット食品を開発したアイデアマンで、「夢とろろ」を犬山の名物に育てた立役者です。地元でとれる自然薯に興味をもっていた林さんは、1999年(平成11年)に市内の農地を借り、自ら栽培に取り組みます。「とりあえずつくってみようと。商品のことは考えていなかった」と当時を振り返ります。

犬山の気候にも土壌にもめぐまれた環境のなかで良質な土づくりにはげみ、栽培技術を確立した結果、生産は徐々に本格化。一緒に取り組む仲間たちと「犬山東部じねんじょ部会」を設立したのは、2003年(平成15年)のこと。現在、部会の会員は38名まで増え、年間約4トンの「夢とろろ」を生産しています。

ところが、自然薯をつくってみたものの、当初はなかなか売れず、販路の確保という大きな壁に直面します。売れないのなら、加工して何かに活かせるのではと、自然薯をねりこんだうどんを製造したのが5年前のこと。さらに、もっと気軽に提供できる新たなものがないかと思案するなかで、家族の意見を取り入れつくってみたのが、「夢とろろ」を加えたドーナツ。できあがりを口にしてみると、ふかふかのカステラのようで驚いたと言います。冷めても固くならず、もっちりとした食感が増すことから、これはいけるということで4年前から製造・販売を開始しました。

「じねんじょ夢とろろドーナツ」として、地元の農協がひらく朝市で売り出したところ、人気に火がつき、評判が一気に広まります。現在は、自身が経営するレストランのほか、市内のホテル、県内外のサービスエリア、名古屋のデパートなどでも販売され、売れ行きも好調。いまも販路は口コミでどんどん拡大しており、部会でつくる自然薯だけでは供給が追いつかないほど。林さんも「こんなに売れるとは思っていなかった」と、驚きの表情をみせます。

ドーナツに入っている自然薯はごく少量と言いますが、こだわりの小麦粉との相性からうまれる、ふわふわでもちもちとした食感は、口に入れたお客に驚きをもたらします。

こうした消費者の反応に、林さんは自然薯のもつ大きな可能性を感じ、加工品についての確かな手ごたえをつかみます。昨年9月には、「夢とろろ」の加工食品を製造・販売する株式会社自然薯工房くいもんや源を立ち上げ、市や商工会とも連携しながら、地元の食文化の発展に力をそそいでいます。

次々とわいてでるアイデア

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レストラン「くいもんや源」では「夢とろろ」を使った定食やそば、うどんが味わえます

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「夢とろろ」を使った製品をアピールする林さん

うどん、ドーナツに続いて、ラスク、玄米じねんじょ粥など、林さんがつくる「夢とろろ」を使った製品はどんどん増えています。「自然薯は捨てるところがない。まだまだ使い道はあります」。とろろの食感が残るようなジェラードやババロア、葉を使ったお茶づくりなど、製品化へのアイデアは次々とわいてでます。

大人気のドーナツも、いま販売している8種類(プレーン、シナモン、抹茶、金胡麻、大豆きなこ、麦とろ、ハチミツ、八丁味噌)のほかに、季節にあわせた限定のものがつくれないか検討中。これからのことについて語り始めると、身をのりだして止まらなくなる林さん。「こういうことが大好き。おいしいと言ってくれれば、儲けは度外視してしまう」と笑います。

林さんの泉のようにあふれでる情熱は、いったいどこからくるのでしょう。犬山から全国に発信できる可能性を秘めた自然薯にかける思いは深まるばかりのよう。これからどんな製品がうまれるのか。とても楽しみです。

新たな製品の開発と販路の拡大へ走り続ける林さん。いまはドーナツの製造・販売に追われ、畑にも顔をだせていないそう。大好きな釣りにも行けない忙しくも充実した日々が、これからも続きそうです。(新美貴資)

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