里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(46)」〉最高のサービスを提供したい 「うなぎ与八」店長 水谷 圭さん

〈『日本養殖新聞』2016年4月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

三重県の北端にあって、木曽三川を境に愛知、岐阜県と接する桑名市近鉄とJRが乗り入れる「桑名駅」から歩いてすぐのところに、いなべ市とをむすぶ三岐鉄道北勢線の小さな始発駅「西桑名」がある。今や国内では数少ない、軌道の狭い「ナローゲージ」と呼ばれる電車に乗りこむ。窓を背に並ぶ縦座席にすわり足を伸ばすと、向かい合う相手の足に触れてしまうくらいの狭い車内。サラリーマンや学生らを乗せたローカル鉄道は、大きなうなりをあげ、ガタゴトと大きく揺れながら動き出した。

おもちゃのような3両が連なった電車は、 民家の間をゆっくりと進む。ゆるやかな傾斜をのぼり、鮮やかな緑の田園のなかを走りぬける。桜はちょうどいまが満開で、車窓からの景色を20分ほど楽しみ、無人の「穴太(あのう)駅」で降りる。ダンプカーやトラックが行き交う幹線から枝道に入り、民家のなかをしばらく歩くと再び幹線に出る。飲食店がいくつか並ぶ街道のかたわらにあるのが、ウナギ専門店「与八」だ。

桑名市内にあって、隣接する東員町に近いこの地で開業して10年。多くの客が訪れる繁盛店を営むのは、店長の水谷圭(38)さん。ともにウナギ職人である父・義弘さんと経営する。扱うウナギは宮崎県産が中心で、選りすぐった良質なものを割いて串を打ち、炭火で焼き上げる。たれには、三重県産のたまりを使う。持ち帰りを頼む客も多いことから「皮目が硬くならないよう」ていねいに焼き、表面はぱりっと香ばしく、なかはふっくらとやわらかに仕上げる。「たくさんの方に来ていただき、夜の集客にもつながれば」と、平日には、吸い物や小鉢、デザートなどが付いたウナギのランチ丼(1500円〈税抜き〉)と同まぶし(1800円〈同〉)を提供し、人気を集める。

「まさかウナギ屋をやるとは思っていなかった」と、これまでの道のりを振り返る水谷さん。高校を卒業後、特に進路は定めていなかったが、母方の祖父が桑名市内で有名な料理・仕出し屋を営んでおり、その支店であるウナギ屋を叔父が経営していた。父もこの2つの店で働いていたことから、叔父の店に入り、ウナギ職人としての修業の第一歩を踏む。「お客さんが笑顔でまた来ると言ってくれたり、おいしかったと声をかけたりしてくれて、一年くらいしてからやりがいのある仕事なんだとわかり、そこから目覚めました」。

その後、津や名古屋の名店でも修練をつみ、約10年後に父との念願を果たす。「いつか一緒に独立できたらと思い、突っ走ってきました」。ウナギの仕入れから調理、接客、店の経営まで、持ち前の積極さと柔軟さでどんどん吸収し、多くの店を食べ歩いて研究もした。目標を立て、積み重ねてきた一つひとつが、いまにつながる。それぞれの修業先とは現在も親交があり、感謝の思いを忘れない。

稚魚の不漁に見舞われてからは「不安しかなかった」と言うが、そんななかで廃棄していたウナギの頭と尾を有効利用できないか思考し、地元名産のしぐれ煮を製造している同級生と連携。ウナギのつくだ煮「うなっぽ」を3年前に商品化し、これまでに約2000個を販売した。新たな取り組みは、地域の農畜産物を使った商品化へと広がり、地元の活性化に貢献したいという人びとの輪が、水谷さんらを中心にさらにふくらむ。東海三県の若手職人が集う親睦会も、水谷さんの呼びかけで3年前に発足し、ウナギ食文化の発展に向けて、情報や意見を活発に交わす。

「ウナギの命を頂いていることに感謝することが業界の団結につながる。一匹一匹を大切に、クオリティを上げていきたい。来てくださったお客さんに最高のサービスを提供したいです」。そう水谷さんは力をこめて語り、あふれる感謝の思いを胸に、職人の道を邁進する。

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