里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(67)」〉不振が続くシラスウナギ漁 食文化の継承へさらなる取り組みを期待

〈『日本養殖新聞』2018年1月25日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

今期のシラスウナギ漁は、記録的な不振が続いている。愛知県では昨年12月16日より採捕が始まっているが、この月の採捕量は8.6グラム(前年同月37.3キログラム。同県水産課より)と大きく落ち込んでいる。ただシラスウナギの来遊は時期によって変動し、それによって漁獲努力も変化するので、数値の比較ばかりにとらわれるのは早計である。不漁には、黒潮の大蛇行が影響しているとの見方もあり、海流の変化が予想される2月以降に期待したい。

シラスウナギの不漁を大手メディアも連日大きく報じている。目にしたテレビや新聞では、水産庁によるニホンウナギ稚魚の国内採捕量の推移のグラフを引用していたが、昭和32年から47年頃までの採捕量について「クロコが入っている可能性」があるとの文言を転載していなかった。一部にあいまいな数値を含む統計を、その部分について説明をせずに使うことは、誠実さを欠いたものであると指摘しておきたい。

「魚を獲り尽くす」「日本の海から魚が消える」などといった煽情的な言葉を使った見出しのビジネス誌や書名の本の出版が近年相次ぎ、「水産資源乱獲論」が盛んに報じられている。資源の減少した主要因は過剰な漁獲であるとし、そのことが漁業の衰退を招いていると訴えている。既存の漁業のあり方を否定し、欧米型の資源管理制度の導入を図り、効率化を進めよという主張である。

資源が大きく減少した魚種を取り上げる一方で、増加した魚種にはほとんど触れず、乱獲の危機をあおるのが、こうした主張に見られる特徴である。公的な資源管理のほかに各浜で行われている、漁業者による自主的な資源管理の取り組みについてはほとんど取り上げておらず、内容に乏しい。

ウナギについて言えば、その減少要因は過剰漁獲ばかりでないことは明らかである。人為的な開発による河川や海岸、浅海の環境破壊、海況や生態系の変化、さらには地球の動態の基本構造が数十年間隔で転換するレジームシフトなど、さまざまな事象が影響していると考える。けっして乱獲がないと言っているのではない。減っている資源の漁獲量を抑制し、予防的な措置を講じるのは当然のことである。

これまで取材でいくつも河川を訪れ、そこに暮らす人びとから話を聞いてきたが、目指すべき本当のゴールは、ウナギの棲める川を再び取り戻し、生命の循環を呼び戻すことではないか。

ウナギ業界において、関係者一人ひとりがなにができるのかを考え、地域や業種の壁を超えて消費者も巻き込み、もっとできることがあるはずだ。魚は工業製品ではない。自然から授かった恵みの一部を受けた生業であるということを改めて確認し、人びとから愛される食文化の担い手として、実態からかい離し抽象化された論調に惑わされることなく、邁進してほしい。それぞれの現場で真摯に懸命に生きる。そんな人たちを今年も応援し、追いかけたい。

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